第171国会 2009(H.21)年4月7日「農林水産委員会」
Q1 特定農産加工業経営改善臨時措置法改正案の役割について
▼大河原:
特定農産加工業経営改善臨時措置法案の役割について確認をさせていただきたい。
△近藤基彦副大臣:
3回の改正で成果が上がっていると我々は思っている。この19年間で1,212件計画が承認され、融資件数は1,423件、総融資額5,476億円に達している。税制特例に関しては、国税、地方税合わせて計486件、減税額約29億円利用されている。
この結果、かなりの改善が融資した企業には見られる。通常の同一業種では、平成19年度の売上高利益率で平均0.52%だが、融資した企業では1.05%に上昇しているとか、あるいは雇用が創出をされている、あるいは地域農産物の取引量が伸びたといった成果を上げている。特に、かんきつ果汁製造業あるいは乳製品製造業等、関税が引き下げられ、より経営環境が悪化した農産加工業者が対象なので、非常に成果を上げていると思っている。
Q2 対象業者の基準について
▼大河原:
対象業者の設定基準はどうなっているか。
△町田農林水産省総合食料局長:
特定農産加工法の支援を受けるためには、特定農産加工業者が経営改善計画等を作成し、都道府県知事の承認を受ける必要があるとされている。
この承認には、①経営改善計画の実施による売上高又は経常利益の伸び率の目標が年平均1%を上回ること、②地域の農業の健全な発展に資するものであることを要件としている。
▼大河原:
この法の目的からいえば、輸入に対して国内農業を守っていく、雇用もつくり出す地域をしっかりとつくり上げるという意味で、この事業者の方たちを中心とした広がりがあるものを確立させていくことと思うが、この中小の事業者のサイズはどうなっているか。
△町田農林水産省総合食料局長:
資本金3億円未満、また従業員300人未満といったことが中小企業の定義になっている。
▼大河原:
食品加工製造業で300人もいるとちょっと大きいじゃないかというイメージだが、この融資を受けるには、一番小さなところではどこまで可能なのか。
△町田農林水産省総合食料局長:
特定農産加工の融資実績は、平成元年から19年度まで計1,423件、5,476億円となっている。融資1件当たりの融資規模で最大の融資額は、かんきつ果汁製造業で70億円。これは飲料工場を増強し、製造工程の効率化と品質の向上を図った事例である。最少融資額は麦の加工品製造業で123万円。これは事業協同組合が小麦粉の品質の試験装置を購入したものである。
Q3 リンゴ果汁の産地偽装事件について
▼大河原:
リンゴ果汁で産地偽装があったが、この事件はどんなものだったのか。
△町田農林水産省総合食料局長:
リンゴジュースを青森県産と称して販売していたものが実は中国産のものであったということで、詐欺、また不正競争防止法違反ということで関係者が逮捕された事案だ。
▼大河原:
輸入果汁を扱っている業者もこの融資の対象になるのか。
△町田農林水産省総合食料局長:
特定農産加工業者の経営改善と併せて地域農業の発展に資するということが目的となっているが、国内農産物の生産に季節性があることで、一定の工場の操業度を保つためには国産農産物と外国の輸入農産物を組み合わせて使うという実態もある。そのため輸入農産物を使うケースも通常見られる。
▼大河原:
この事件の場合は、どうして産地偽装が発覚したのか。
△町田農林水産省総合食料局長:
ただいま御答弁できないので、後ほど分かったらお答えさせていただく。
Q4 リンゴ果汁の産地表示の決まりについて
▼大河原:
100%青森県産と表示されたものに輸入の果汁を使っていたということが分かり、表示が違うので問題になったということだが、輸入の果汁を国産の果汁に混ぜてジュースを作って売る場合の表示で、産地の表示の決まりはどうなっているか。
△本川農林水産省生産局長:
例えば梅干し等一部の食品については原料の原産地表示をすることになっているが、リンゴジュースの表示については、原料の原産地を表示するというルールをまだ設けていない。表示の在り方について検討、議論をしている最中で、原材料について、中国産であるということを表示するルールにはなっていない。
▼大河原:
この業者が輸入のリンゴ果汁を使っても、これを100%県内産とうたわなければ問題にはならなかったのか。
△本川農林水産省生産局長:
そういうことではないかと思う。
Q5 偽装業者への融資実態と融資の前提である経営改善に係るチェックについて
▼大河原:
この業者は融資対象者だったのか。
△町田農林水産省総合食料局長:
本法の融資の対象者だった。なお、この事件後に繰上げ返済を行い、融資残高の全額は返済済みである。
▼大河原:
その融資額は幾らで、何年から始まり、返済までどうだったのか、経過を教えて欲しい。
△町田農林水産省総合食料局長:
政策金融公庫から聴き取ったところによると、融資年度は平成10年、融資金額は2億4,000万円である。融資残高の金額は直ちに今資料として手元にないが、事件が発覚したのが昨年の8月で、これにより融資残高の繰上償還の申出があり、昨年の10月に融資残高全額について繰上償還が完了していると承知している。
▼大河原:
この業者から順調に返済が行われてきたのに、8月に偽装表示が発覚し、10月に繰上げ返済をしているということは、業者支援を考慮するより焦げ付かせないために早めに貸しはがしたような印象を受ける。国は、融資の前提である経営改善に係るチェックをどのようにしているのか。
△町田農林水産省総合食料局長:
この法律に基づく経営改善の計画承認に当たっては、地域農業の健全な発展に資することを要件としている。仮に、輸入農産物のみを加工原料とするような計画であれば、当然のことながら承認要件に該当せず承認は行わないということになる。そこを偽っていたというのが本事案である。
この件については、都道府県知事に、その地域の実情を熟知しているということ、また地場産業の育成も推進しているということで、計画の承認自体はお願いをしている。当然のことながら、都道府県における計画承認が本法の趣旨に沿って全国的に整合性を持って適切に運用されることが大事で、国もマニュアルを作るなど、言わば技術的な助言を行っている。
▼大河原:
この承認は都道府県知事が行うということで、改善計画の第一チェック責任者は知事だと国は多分言いたいのだろうが、支援を拡大してきた中、今回は改善計画自体がどうだったかまで問われていると思う。
この融資によって経営が本当に改善されたのか、何を根拠にそういうことが言えるのか、それぞれこの例を見れば、融資先の実態はどうなっているのか、すべて県任せなのか。大臣として、対象となっている融資先の実態をきちんとチェックをする御意思はないのか。
△町田農林水産省総合食料局長:
計画の承認を受けた事業者が、その後、当該業者のように輸入農産物のみを使用するといったようなことで、承認を受けた計画に従って経営改善措置等を実施していないと認められたときは、法第4条第2項に基づき、都道府県知事は承認を取り消すことができるとされており、当然のことながら、承認取消しになる。
なお、青森の事例のような案件が他にあったかどうかということについては、現時点ではこの案件以外は承知していない。
▼大河原:
20年にわたり、さまざまな業者に融資しており、今初めてこういうことが起こったと言っているが、途中で計画どおりにいかなくなったケースがあるのではないかと思う。いま一度答弁を。
△町田農林水産省総合食料局長:
平成元年度の本制度の創設以来、承認が取り消された経営改善計画は13件。このうち11件は、計画承認後に経営事情が急変し、計画実施が困難となった事業者からの申請で知事が承認を取り消した。事業者からの申請で取り消したこの11件のうち9件は、融資前だった。融資が実行されていた2件については、繰上償還が行われているところだ。
この11件のうちの9件を除いた残る2件は、経営改善計画に基づく措置終了後に当該事業者が廃業したことから承認が取り消されたもの。この2件のうち借入れがあったのは1件で、この事業者は取消しの前に既に資金を償還した。また、残りの1件については、借入れを行っていなかった。
このほか返済不能に陥った事例として把握しているのは27件。その主な要因は、経営悪化による売上げ低迷等による経営の不振、販売先との取引解消等によるものと聞いている。
Q6 政策金融公庫への資金調達について
▼大河原:
政策金融公庫へはどこから資金が調達されるのか。
△町田農林水産省総合食料局長:
政策金融公庫に対しては、政府から補給金が交付されている。
Q7 リンゴ果汁の利用実態等について
▼大河原:
このように立ち行かない、うまくいかない事業も実はあったわけで、この法案の延長理由に、これまで一定の評価があった、一定の成果を上げてきたというのに、融資額でこれだけ融資ができたという言い方でこれを説明されるのは不十分だ。どれだけ事業者を強化できたかということでないと、この経営改善臨時措置法の意味がなくなるのではないか。今回も融資を拡大するというよりは年次を5年間延長するということなので、実績の評価は経営改善の結果で評価されるべきだと思う。
今回挙げた事例は、これまではネームバリューもあり実績も上げられてきた一方、そのブランドの重みが偽装まで起こしたとも考えられる。リンゴ果汁の利用実態、今の日本の消費実態、それから供給実態、これはどうなっているか。
△町田農林水産省総合食料局長:
リンゴ果汁の原料として、国産が約1割、残り9割が輸入であると承知している。
▼大河原:
昔は、なかなかリンゴジュースは飲めなかったが、私たちの日常生活を見ても、リンゴ果汁を結構飲むようになったと思う。利用の拡大は3倍になっているが、国内産の量はなかなか伸びず、むしろ減っている。だから事業者は国内産をうたえばうたうほどきつくなる。
それでは材料が足りないのかと思っていたら、実は在庫はあるのに、それが使えずこういう事件も起こる。安い外国産の果汁が急増したのも原因ではあるが、加工用のリンゴが急に出回っても、加工業者にとっては搾っても在庫になり、果汁を冷凍保存する設備がなければ腐ってしまうという状況。材料があっても、加工業者がそれをうまく利用できない実態がある、そういう理解でいいのか。
△本川農林水産省生産局長:
リンゴについては、生の果実で販売される場合と、加工、果汁用の原料になる場合では価格に相当の開きがある。したがって、国内のリンゴ生産農家の方々は生果用として販売するということを目標にして生産している。
例えば、この1年間の場合、青森県でひょう被害が出て、それにより生果として販売できるリンゴが堆肥に回された実態もある。
Q8 リンゴ果汁事件について大臣の感想
▼大河原:
リンゴに限らず、農産加工については、加工専用で生産したもの、傷などのため生果で販売できなくなったもの、大量にでき余ったもの、こういう3つの原材料の供給ルートがあるが、コストが高い等の理由で、リンゴ果汁の場合、事業者が迅速に対応できない。せっかくできたリンゴが、そのように処分され肥料にされる、あるいは倉庫で腐ってしまう状況を、消費者としてはどうにかならないかという思いだ。
そのため、融資先、融資の方法等も更に検討が必要と思うが、石破大臣のこのリンゴ果汁事件への感想を伺いたい。ここから見える課題をどうとらえているか。
△石破農林水産業大臣:
これは、中国産が安いのだと、それで非常に巨利を得るのだ、1回やったら余りにもうかったのでやめられなかったというお話で、そこはきちんと消費者を欺かないようにちゃんとやって欲しいということしか言いようがないものだと思う。
消費者を欺かない、消費者にきちんとした情報が提供されることが大事なのだということはよく認識しているが、消費者にきちんとした情報を伝えるというときに、ミカンとリンゴで違っていいのか、区別的な取扱いをしてよいのか等、多くの論点がある。消費者に適切な情報をできる限り伝達するというやり方を早急に確立するということがまず大事なのではないか。
Q9 国の食料安全保障にかかわる問題の方向性について
▼大河原:
輸入物と国産物の価格差が非常に大きいので、偽装をすれば大きな利益を得るが、偽装の発覚で社会的信頼は失う。今回は会社名も変え、心機一転、再生に立ち上がったそうだが、地域の他の事業者の方たちも被害を受ける。
だからこそ、例えば国産と外国産をブレンドしていると、「いや、このブランドは100%国産」、「あるいはここはこの地域の果汁を100%使用」等、様々な付加価値になる表示も可能となる。そういう意味では、政府が、輸入しているもの、それから国内での生産量をきちんと把握し、誰がどこでどういう量を使っているのかを把握することが大事だ。
「加工」の意味には付加価値が付くということと、もう1つは加工することで保存が可能になるということがある。安定供給する努力に、政府が取るべき業者支援の考え方として、日本で生産される農産品の把握、消費し切れなかったものがどのように処理されているかなど、量のきちんとした把握と適正な加工事業、製造者の実態把握をしていただきたいと思う。
この法律は5年間延長されるが、5年延長後の課題も出てくると思う。自由化などの結果に対応するだけでなく、これから先の我が国の食料安全保障にかかわる問題の方向性をどうとらえていらっしゃるのか。この法案はいつまで続けるおつもりのものか、対象業種の拡大についても伺わせていただきたい。
△町田農林水産省総合食料局長:
本法案については、農産加工品の関税が下がることで経営環境が厳しくなるといった変化に対応して、特定農産加工業者の経営改善を促進しようということでやってきている。
国としては融資の額だけでこの効果を図ろうとは考えておらず、経営改善効果、地域での農産物の利用増加等の効果が見られている。
今後の状況については、今後、仮にWTO等国際交渉により、国境措置の変更など輸入条件に関わる著しい事情の変化があれば、その場合については現在の指定基準で十分対応できると考えており、この基準に従い、対象業種の追加を行うと考えている。
▼大河原:
国際交渉、国際情勢の変化で、追加や変更があるというお答えだが、限りなく拡大されることに対する疑問についてはいかがか。
加工ということを考えれば、加工業者に国内の原材料を安定的に供給するためには別の対応策も必要ではないか。将来的には、特定と言われるものと一般のものとの差がなくなるのではないかと思うが、その点についてはいかがか。
△石破農林水産業大臣:
予断をもって物事を申し上げるのは適切ではないかもしれないが、FTAあるいはEPAにおいても、何を対象とするかについては、国家間、政府間できちんと議論を行った上でやっている。
我が国の農業に甚大な影響を与えるものについては、それは除外をしなければならない。また、それがどうしても譲れないということであればEPAは結ばれないことにもなるわけで、そこは政府としては細心の配慮をしながらやってきたつもりだ。
他のものについてはどうなのだということについては、現在そのようなニーズがあると私どもは承知していない。今まで、時限法だったので、その都度改定もしている。また、対象業種の追加を省令で行った例も平成7年にある。フレキシブルに対応できるようにしてきたところなので、今後、そのようなことが必要となれば、それは行うことは十分あり得る。
Q10 グランドデザインにおける加工食品の位置づけについて
▼大河原:
前回の委員会の大臣とのやり取りの中で、農政のグランドデザインということを聞かせていただいたが、農業のグランドデザインにおける加工業の位置付けというものを、もう一度確認をしながら変えていかなければならない。持続可能な農業と生産者にとって安心して食べられる農産物をきちんと位置付けるならば、加工についてもきちんとした国の方針、姿勢が必要だ。
前回の委員会で、消費者の視点がこれまで日本の農政の中に欠けていたということを認めていただいたように思うが、大臣が考えるこれから先のグランドデザインにおいて、食品加工とはどんなふうに位置付け、考えられているのか。グランドデザインの中に消費者に対するメリットも必ず組み込んでいただかなくてはと思うが、いかがか。
△石破農林水産業大臣:
安全と安心を確保することが当省の一番大きな使命だということは言葉では分かっていても実践が伴っていないということがあった。そこはよく反省をして、実際に消費者に実感していただけるようにしなければならない。
加工することによって新たな付加価値が生ずることがある。そのことで付加価値が加わり、生産者も消費者も互いに利益になるということがある。
そのため、農産品加工の中での大きな位置付けというのは何ら変わるものではない。そこへどのような支援を行うか考え、流通の改善等や、生産者、消費者との間等への助成を考えていかねばならない。
そして、最終的に選ぶのは消費者になるわけだが、消費者のニーズがどうやってちゃんと伝わるか、あるいは消費者が選ぶのに適当な情報が提供されているかということにも配意をしていかねばならないだろう。
そして、日本の消費者は、世界の中で最も厳しい目を持つ消費者の一つではないかと思う。日本の消費者に選ばれるように生産者の側としては、できたものをどう売るかよりも、売れるものをどう作るかという考えに変えていかなければならない。消費者に選ばれなければ、それは商品足り得ないのだと思うので、そのこともよく考えていきたい。
消費者のニーズが的確に反映され、消費者と生産者と流通に携わるそれぞれの人が利益になる、誰かが一方的にしわ寄せを受けるようだと、それは健全な発展とは言えないので、みんなが利益になるようなやり方というのを考えていきたい。
▼大河原:
一昔前のように、お客様は神様、消費者は見栄えで物を選ぶ、そういう時代ではないということは御認識いただけると思う。曲がったキュウリもちゃんと中身があるのをみんな知っているし、そういう意味では選ばれるものを作っていくというのは第一段階である。それだけではなく、持続可能な農業、持続可能な食料需給を見通した食料生産についても、消費者は理解がある。きちんと素性がわかった農産物をそれに見合った価格で購入するという意識を持った消費者が増えている。だから、そういう消費者を裏切ることのないようにしていただきたい。
政府だけではなく議会も、前回の参議院の附帯決議の中には「国民意識の高まり」、衆議院でもやっと「消費者のニーズ」という言葉が出てきていた状況で、まだまだこれからだ。昨日の日経の夕刊でも、学校給食で地場のものを使っていきたいと答える方が6割いたということで、加工は非常に大事なことだと思う。
最後に1問伺いたいが、加工適性品種の開発について、どのように取り組まれているか。
経営改善で加工用のものを取り扱おうと工場を稼働させても、温暖化でトマトができる地域がどんどん北上し、材料が入らなくなってくるということもあり、この加工用の適正品種の開発はなかなか小さな事業者にはできない。国の責任が大きいかと思うが、この点についてどう取り組まれているか。
△佐々木農林水産技術会議事務局長:
国産加工原料用の農産物に関し、高品質なものを作っていかなければならないのは御指摘のとおり。
国として、様々な作物について、加工原料として適する高品質な作物の品種開発を進めている。トマトについてもそうした品種開発を進め、ジュース用として適する品質のトマトの品種を開発している。栽培技術としても、温暖化に対応する高温対策として、細霧冷房あるいは循環扇の効率的制御技術といったような栽培技術の開発も進めている。今後とも積極的に対応してまいりたい。
▼大河原:
食品偽装で大もうけするような事業者にはきちんとしたペナルティーを与えたいと思うが、風評被害に遭わぬように、再起を期した方々には本当に精いっぱい頑張っていただきたいと思う。