第183国会 2013(H.25)年5月8日「予算委員会」

▼大河原:

今日、与党の皆さんがいないなかで、しかも(予定されていた)テレビ中継もなく質疑をすることになりまして、本当に残念に思っております。

与党の皆さんの欠席は、与党の無責任と、ひいては参議院の否定にもあたり、大変嘆かわしい事態です。

気を取り直して質疑に入ります。

この連休中の国内での明るい話題は、富士山のユネスコ世界遺産の登録ではなかったかと思っております。富士山といえば誰でも知っていて、また平和の象徴と言えると思います。国際連合教育科学文化機関、いわゆるユネスコの憲章にもそういうこと(平和の象徴のこと)がしっかりと書かれているわけです。

まず、総理に、ユネスコの理念、特に前文について、どのような認識をお持ちなのか、伺いたいと思います。

△安倍晋三内閣総理大臣:

ユネスコ憲章前文にうたわれている平和理念は人類普遍の原理であり、我が国は教育、科学及び文化の協力と交流を通じた国際平和と人類共通の福祉を目的とするユネスコと理念を共有しております。以上でございます。

▼大河原:

「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて世界の諸民族の間に疑惑と不信を起こした共通の原因であり、この疑惑と不信のために諸民族の不一致が余りにもしばしば戦争となった。ここに終わりを告げたる恐るべき大戦争は、人間の尊厳、平等、相互の尊重という民主主義の原理を否認し、これらの原理の代わりに無知と偏見を通じて人間と人種の不平等という教義を広めたことによって可能にされた戦争であった。」 これは抜粋です。この憲章の当事国政府は、その国民に代わってこれを宣言するとあります。

総理、普遍の原理、真理を広めていると今ご答弁されましたが、いま一度この前文をお読みになって、先の大戦と絡めて率直な感想をお聞かせください。

△安倍晋三内閣総理大臣:

言わばこれは相互の、国相互あるいは民族相互でありますが、それらの様々な違いを克服していく上においては相互の理解を進めていくということが極めて重要であろうということでありまして、そしてまた、しばしばそのお互いの違いに対する寛容性あるいは認識の不十分さ、理解が及ばないということによって戦争が引き起こされたということでありまして、むしろそうしたものを除去していく、お互いの理解を高めていくということが極めて重要であるという、まさにこれは人類普遍の認識であろうと、共通の認識であろうと、このように思っております。

▼大河原:

総理は4月28日に、サンフランシスコ講和条約の発効とともに日本の主権が回復したということで会を開かれました。日本が大戦後、国際社会に復帰をした、その場をどのようにとらえておられますか。

△安倍晋三内閣総理大臣:

まさに日本が独立を失い、そして主権を失った7年間であったわけでございます。つまり、7年という長い占領下を経て日本国は主権を回復した、そして国際社会に復帰をしたわけでございます。

しかし、その61年前の段階においても、沖縄、そして奄美、小笠原は日本の主権の外に置かれたわけでございまして、それから更に努力が続いていくわけでございますし、国連に加盟もその段階では成らなかったわけでございまして、国連に加盟することもそのときの悲願であったんだろうと、このように思うわけでございますが、つまり、国際社会に受け入れられる、復帰をするという先人の努力に思いをはせながら4月28日を迎えたということでございます。

▼大河原:

日本は、国連加盟80番目の国です。今総理がおっしゃったように、国連に1952年に加盟申請し、冷戦中でソ連や社会主義国の反対に遭って即時には承認されず、加盟がかなったのは1956年です。

ユネスコへの加盟は、いつだったか、文部科学大臣いかがですか。

△下村博文文部科学大臣:

1952年と承知しております。

▼大河原:

ユネスコ憲章は、第二次大戦後、憲章の言葉にあるように、二度と戦争を起こさないということで作られ、1945年ロンドンで採択され、翌年から発効しており、日本は1951年に、国連に入るよりも先にユネスコ加盟がかなっています。

日本政府としてこの憲章を宣言するということでユネスコに加盟したのです。日本は変わっていくのだと、戦争を起こしたあの時点の国とは違うということを国際社会が認め、また、自らも宣言したということだと思います。

ユネスコでは、このユネスコの理想を実現するために、平和や国際的な連携を実践するユネスコ・スクールというものを提唱して、既に世界で180か国・地域で8500校以上あります。一方、国連では、持続発展教育、エデュケーション・フォー・サステーナブル・ディベロップメント―通称ESDが、2002年の国連総会で日本の提案で国連持続可能な発展のための教育の10年ということで決議をされております。

文科大臣に伺いますが、このESDの目標、この教育で育みたい力はどのようになっているでしょうか。

△下村博文文部科学大臣:

失礼しました。先ほどの加盟は1951年でございました。

大河原委員が日本ユネスコ国内委員のメンバーであるということを承知をしております。

今、ESDのお話がございました。ESDとは、持続可能な社会づくりの担い手を育む教育であり、その目標は、持続可能な開発を実現するための原則、価値観及び行動が、国際理解、環境、多文化共生、人権、平和、開発、防災などに関して、あらゆる教育や学びの場に取り込まれ、学ぶ人の価値観と行動の変革がもたらされることであると認識をしております。

ESDを通じて、人間の尊重や多様性の尊重等、持続可能な発展に関する価値観、体系的な思考力、クリティカルシンキングの力、データや情報の分析能力やコミュニケーション能力が育成され、また、リーダーシップが向上することが期待をされております。これらの能力等はOECDが提唱するキー・コンピテンシーの内容とも方向性が一致するものであり、ESDの推進はグローバル人材の育成にもつながるものと認識しております。

文部科学省としては、ユネスコ・スクールの推進等を通じてESDに、より一層推進するとともに、ユネスコ国内委員会において、私も先生と一緒に委員でございました。我が国においてまだまだ取組が足らないと私も思っております。是非、ESDの更なる推進策についてしっかり対応してまいりたいと思います。

▼大河原:

このESDの目標を、世界に求めているものですから、当然日本でもグローバル人材の資質をより高めることを優先的にすべきと思っております。

総理は、教育再生に特に力を入れておられると思いますが、世界水準の教育を日本で実現するために、(文科省は)特に実施計画まで起こしており、しっかりと実施すべき10年だったと思います。私も、このESDの考え方、目標は、教育のあるべき姿あるいは国際バカロレアの基準にも見合う人材の目標だと思ってきましたが、なかなか実現されてきませんでした。推進校であるユネスコ・スクールの数もまだまだ少ないですが、来年は最終年を迎えます。

総理は教育再生に力を入れ、道徳教育(が必要)と良く言われていますが、これとぶつかっては困るという危惧も持っております。このESD実施計画、そして計画に沿った教育、これをしっかりとお進めになるおつもりがあるかどうか、総理にお聞きします。

△下村博文文部科学大臣:

先に私の方からお答え申し上げたいと思いますが、このESD、私も日本ユネスコ国内委員を4年しておりましたので、理解をしているうちの一人であるというふうに思いますが、これは安倍総理が、あるいは安倍内閣、我々が推進する道徳教育と重なっているというふうに思います。

ESDというのは、これは持続発展教育ということで、国境を超えて、人類を超えて、お互いに生かし合いながら、またお互いの立場を尊重しながら、それぞれ持続可能の人類の共通性、それはまさにその道徳教育にも重なる部分でありまして、相乗効果をきちっと図っていくということはこれからも安倍内閣として是非推進していくべきことだというふうに承知をしております。

△安倍晋三内閣総理大臣:

ESDの関係省庁会議を設置いたしまして、そしてこの推進計画を策定いたしましたのは私が官房長官のときの2006年でございますから、当然、安倍内閣においても、今文科大臣から答弁させていただきましたように、推進をしていくのは当然のことであります。

▼大河原:

私もこのESDには期待をしなければいけないと思いますが、現実は、報告書にもありますように、まだまだ知られていないということが、非常にショッキングでございました。

今、道徳教育と相入れないことはないとのお答えでしたが、環境教育の方に傾いているような感じがいたします。ユネスコの理念を実現するためといえば、憲章のなかにあるように、持続可能な発展に関する価値観、それにつながる行動が重要になってきます。人間の尊重、多様性の尊重、それから非排他性、こういったことをしっかりと環境共々バランスよく開発をしていき、子どもたちにもそういう価値観を持ってもらう、そしてその次につながる行動もできるようにする、そういうことがまずあろうかと思います。

日本でのユネスコ・スクール数はまだ300校に満たないわけですから、そういう意味で、世界に飛躍をしていく子どもたちのためにも、ぜひこの点をお含みおきいただきたいと思います。

次の質問に移ります。

実際にユネスコ・スクールをやっている学校の教科プログラムでは、先程の目標を達成するために、一科目だけ何かするわけではなく、教科間のつながり、様々な課題を、あらゆる教科のなかに見出すことができるわけで、それらをつなげた構築をしています。

ユネスコ・スクール、ESDのことで、道徳教育と共に新学習指導要領に反映されてはいますが、まだまだ偏りがあるのではないかなと思います。文科大臣には、グローバル人材に資するためにはここが必要と、特に集中していただけたらと思います。ご答弁ありますでしょうか。

△下村博文文部科学大臣:

今、我が国で550校がESDについては加盟をしておりますが、それでもやっぱり少ないと思います。

それで、私も委員をしているとき、委員と選挙区が重なるわけでもございますが、東京の板橋で、これは是非取り組むべきだということで私も首長に提案をしましたら、首長はすぐオーケーをしたんですね。ところが、教育委員会にこれを提案したんですが、なかなかこれについて教育委員会もよく理解が、十分把握できていない、あるいはこれを教える教員となると、なかなか、環境教育のように割合コンセプトが分かりやすい部分は学校でも取り組みやすいようですけれども、これはかなりのESDにおける認識と理解をしていないと、いざとなると学校で対応できるところが少ないということで、結果的にいまだに取り組んでいないというところでございますので、先日改めて、是非これは取り組むようにということを首長、区長にも改めてお願いしたところでございますが。

是非、文部科学省としてもユネスコ国内委員の方々と連携して、このコンセプトそのものは非常に大切なことだと思いますが、なかなかペーパーですぐ理解できるということではない部分も確かにある、相当いろんな多岐にわたるレベルの高い認識力が求められるコンセプトの教育でもあると思いますので、改めて、国内ユネスコ委員の方々と相談しながら、もっと加速度的に各学校で広げてもらえるような、学校現場の理解が得られる、あるいは教育委員会そのものの理解が得られるように努力をしてまいりたいと思います

▼大河原:

国連よりも先にユネスコに入っていながら、ユネスコ憲章、ユネスコの理念、これを実現するというところに日本の教育のベースがいかなかったということが、あるのだと思います。

グローバル人材というのは語学だけではなくて、その人が持っている考え方、価値観、そしてもちろん相手に対する思い、理解、そういったものも含めて全人的な教育なわけですから、教育委員会の理解がないんだよという話ではなくて、まさに日本の教育の根幹が問われる、そういう試みだと受け取っていただきたいと思います。

次に移らせていただきますが、持続可能発展のための教育、大前提は平和と人権の確立だと私は思います。

総理に伺いますが、先日の予算委員会の答弁で、侵略の定義は人それぞれの立ち位置で異なると、定義はないとご答弁になっていますが、定義はありますよね。お答えいただきたいと思います。

△安倍晋三内閣総理大臣:

恐らく大河原委員は国連総会における決議についておっしゃっているんだろうと、このように思うところでございますが、国連総会における侵略の定義に関する決議は、安保理が侵略行為の存在を決定するための言わば参考としてなされたものであるというふうに承知をしております。

いずれにせよ、我が国は、かつて多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えたわけでありまして、その認識においては今申し上げておきたいと、このように思う次第でございます。

そこで、侵略の定義については、言わば学問的なフィールドにおいて様々な議論があるということを申し上げたわけでございまして、政治家としてそこに立ち入ることはしないということについて申し上げたところでございます。

▼大河原:

今総理がご答弁になったことは逆だと思います。総理が学者なら色々なことを言えるかもしれませんが、総理は政治家で、しかも日本を代表していらして、日本は国連を中心とし国連を介して世界に平和を発信する国なわけですよ。その国の総理がこの国連決議は参考だとおっしゃる。これ、おかしいんじゃないですか。

国連では8条に及ぶ定義を決議をしているんです。日本ももちろん、決議には賛成していますよね。どうですか、外務大臣。

△岸田文雄外務大臣:

ご指摘の国連総会決議ですが、総会決議3314号、1974年採択されたものをご指摘いただいていると認識しておりますが、この国連総会による侵略の定義に関する決議ですが、これは安保理が侵略行為の存在を決定するための指針として定めた決議と認識をしております。そうした決議が1974年採択された、このことは認識をしております。

▼大河原:

賛成したかどうかは。

△岸田文雄外務大臣:

当時、コンセンサス採択、全会一致でこの採択をされております。

▼大河原:

賛成したってなぜはっきり言えないんですか。

△岸田文雄外務大臣:

コンセンサス採択ですので、日本も含めてこの決議に賛成をしております。

▼大河原:

退席はしていないんですね。

△岸田文雄外務大臣:

はい。

▼大河原:

だから、この定義はもう国際的に認められているわけで、これができた背景は、いろいろな侵略戦争という経験を世界中がしたわけですよ。だから国連でこの定義をつくったわけじゃないですか。

植民地戦争、侵略戦争とそれぞれやってきた大国も、ご自分のところの過去というものについては真っすぐに自覚をしている。アジア太平洋戦争を含めて、日本の加害の歴史そして被害の歴史、これも両方私たちきちんと知らなければいけないということで、この間の侵略の定義はないという総理のご答弁を私は撤回していただきたいと思いますが、どうでしょう。

△安倍晋三内閣総理大臣:

この安保理の言わば総会によって決議として決まったものを言わば参考、指針にしながら、そして安保理で最終的には決めるということになるわけでございまして、言わば安保理において最終的な決定がなされるわけでございまして、つまり、絶対的な定義は、あのとき申し上げたのは、学問的には決まっていないということを申し上げたわけでございます。

▼大河原:

私は学問的なことを聞いているのではなくて、この国連の決議があったなかでの、総理としての考えを聞いています。だから、お立場としても、この侵略戦争に定義はないということが議事録に残るというのは私たちにとっては非常に不名誉なことですが、いかがですか。

△安倍晋三内閣総理大臣:

つまり、個別の、これが侵略かどうかということについても、この決議以後も、言わばこの決議を指針として決めるのは安保理ですから、安保理としてはまだ何の、例えばそれぞれの個別の案件について、過去に遡って決議を安保理として決定をしているわけではないということでありまして、言わば安保理は残念ながらそれは政治的に決まっていくわけですよね、それは安保理でありますから。安保理で決めるということは、常任理事国は拒否権を持っているということにもなるわけでございまして、そして、そもそも国連によって決まった言わば総会における定義であるということでございますから、それ以降については言わばこの定義において安保理において判断をしていこう。

そして、これ言わば、ここにも書いてあるわけでありますが、これは1条、2条、3条と、こうあるわけでありますが、国連の憲章に違反する、言わばここでも書いてありますが、最初の武器の使用だったかどうかということについても書いてあるわけでございますが、そういうことも含めて言わば安保理において決めていくという性格のものであって、先般私が申し上げたのは、学界的に明確な定義がなされたかということについてはそうではないということにおいて申し上げていたわけでございます。

▼大河原:

それでは、総理、この定義に従って、例えば、今安保理が決めるとおっしゃったんですが、過去の私たちの国がかかわった戦争というのはどういうものだったのでしょうか。

20世紀は、戦争の世紀と言われて、戦争の惨禍というのは本当にひどいものがあります。戦争の惨禍というのは政治の結果ということですが、第二次世界大戦、そしてアジア太平洋戦争の悲惨な結果、本当に大勢の命が失われた、その加害の歴史、被害の歴史に向き合う必要があります。その後の残された方々や傷病者、それぞれの家族がその後、戦後どんな辛酸をなめたかということがこのグラフにはありません。

総理はどういう御認識なんでしょうか、さきの大戦、そして戦争そのものについて。

△安倍晋三内閣総理大臣:

有史以来、様々な戦争があったわけでございますが、特に20世紀においては、一般の国民をも、多くの国民をも巻き込む様々な戦争が発生したわけでございます。その中においても我が国も無縁であったわけではなくて、かつて多くの国々、とりわけアジアの人々に対して多大な損害と苦痛を与えたということでありまして、その認識におきましては過去の内閣と同じ認識を持っているわけでございます。

その言わば深刻な反省から我が国は戦後の歩みを始めたわけでありまして、自由と民主主義、そして基本的な人権、しっかりと守ってきたのみならず、こうした多くの国々と共有する普遍的な価値を広げるための努力も行ってきたということでございます。そして、この多くの地域で平和と安定が守られるために様々な貢献もしてきたわけでございまして、時にはPKO活動にも参加をしながら、平和を回復し、そして安定的な平和を維持するための汗も努力もしてきたということでございます。

▼大河原:

日本がかかわった、日本が仕かけたと言われるような、そういう戦争でアジア地域は、非常に傷みました。この傷を癒やしていくのはまだまだ時間がかかると思います。

私は国会議員になって、改めて余りにも戦後の処理が不十分だと思いました。国会議員になりましたら、直接いろんな方々が、戦後に起こったその悲惨な結果を、何とか補償してくれ、あるいは謝罪をしてくれ、あるいは和解のために何ができるのか、大勢の方々から要請を受けました。問題は慰安婦だけでなく戦時中に例えば日本の民間企業で働いていた徴用労働者などへの未払賃金や、供託金の問題など、我が国では未解決です。

私は、民主党の有志議員で結成をいたしました未来に向かって戦後補償を考える議員連盟のメンバーとして、先日、残念ながら急性の難病で亡くなられました今野東議員とともに、こうした被害に遭われた御高齢になった当事者の方々、あるいはそのご家族、そしてまた遺族の方々、そういう方々とも何回もお目にかかりまして、解決の糸口がないものかと取り組んできたわけです。今野議員や同僚議員とともにドイツの記憶・責任・未来基金あるいは韓国の真相究明委員会などもお訪ねして、調査、取材をさせていただきました。

ご承知のとおり、ドイツでは政府と企業が共同でこの記憶・責任・未来基金を設立して、被害者の被害回復を図ってきました。ドイツ政府からも説明いただきましたけれども、ドイツ政府もその当事者の企業も、当該企業はもちろんですが、できたばかりの新しい企業でさえこうした歴史的な責任や道義的な責任を果たすという立場で、この基金は2000年に立ち上げられて、政府、企業が資金を出して、そして既にもう補償を終えています。遅いということはないんです。

総理が解決に向けて国が果たす役割をどういうふうにお考えなのか、また日本も企業だけにこの補償問題を任せずに、ドイツの事例から学んで、国としての責任の果たし方、解決の方針、こういったものを持つべきだと思いますが、いかがでしょうか。

△岸田文雄外務大臣:

ただいま委員の方からドイツの例を挙げていただきましたが、そもそもドイツは、戦後、東西に分断されておりました。よって、我が国のように国家間で賠償等の問題を一括処理することができなかった、こういった事情が存在いたしました。よって、結果的にこのナチス犯罪の犠牲者への個人補償という形を取ったと承知をしております。

一方、我が国につきましては、さきの大戦に係る賠償並びに財産及び請求権の問題はサンフランシスコ平和条約及びその他の関連条約等に従って誠実に対応してきたところであり、これら条約等の当事国との間で既に法的に解決をしたということであります。

このようにドイツと我が国とでは戦後置かれていた状況が異なっているため、この戦争中の行為に関する戦後の取組に関してそれぞれ対応を単純に比較することは適当でないと考えております。我が国としては、我が国の置かれている状況の中でできる限り対応を行ってきたと認識をしております。

▼大河原:

私はドイツの例を単純に引けと言っているわけではありません。日本の事情は更に複雑、更に深刻だと思います。ですから、日本は、法的に解決、処理は済んでいるという言いっ放しにしないで、実際にやるべきことはやらなきゃいけないんじゃないかと申し上げているんです。

昨年の5月には韓国の最高裁である大法院が日本企業に支払を命じる判決を出し、日本企業も困惑をしています。だから、政府が企業とともにこの問題を未来に向かって解決していこうという姿勢をしっかり見せることが今求められているのだと思います。

厚生労働大臣、いかがですか。戦後処理はいろいろとやってこられたと思いますが。

△田村憲久厚生労働大臣:

厚生労働省は遺族援護等々やってきておるわけでありますから、直接この賃金の未払問題は我が省、今現在所管ではございません。ただ、当時の厚生労働省が戦後混乱期の朝鮮人労働者の方々の賃金未払問題に関しましては、これを、供託手続をなるべくできる限りするように関連の事業主の方々に指導をさせていただいた、そんな経緯がございます。

供託された供託金に関しましては、所管が今法務省でございまして、法務省の方で適切に取り扱われておるように、そのように存じております。

▼大河原:

縦割りなので役目が違うということがあり、解決が遅いのだと思います。それで、法的に片が付いているという言い方しかこれまでの政府もしてこなかったということがあり、縦割りのなかで最大限やってきたんだという言い方しか今のところないんだと思います。

日本も安倍政権が第二次として始まりまして、お隣の韓国でも朴槿恵大統領が誕生しました。先日の電話会談でも、韓国の大統領と総理はいろいろお話をされていると思います。漏れ聞いているところでは、とにかく韓日、日韓の緊密な関係が東アジア共同体の構築の第一歩となるんだという認識を示されて、両国が新政権発足を機に関係発展を努力しようと、両国の関係の障害となっている歴史問題についても、未来世代に問題を残さないように、政治リーダーが解決、決断をしようじゃないかというふうに声をかけられているのではないでしょうか。

総理も未来志向という言葉をお使いになります、未来志向の意味、本当の意味、それをしっかり受け止めていただきたいと思います。積極的に未来志向の関係をつくるように働きかけられているという意味では、この強制連行労働の補償問題、そして、まだまだほかにも片付けなきゃならないなという問題があると思いますが、どのようにご認識でしょうか。

そして、これがばらばらに解決されるのではなくて、例えば一つのまとまった連携の特別な委員会、特別な調査部門、そういったものをおつくりになって、未来志向で、韓国や中国、その他のところとも積極的に関係性を良くしていくための努力をなさるおつもりはないでしょうか。

△安倍晋三内閣総理大臣:

ご指摘のように、朴槿恵大統領とは朴槿恵大統領が就任後、電話で会談を行いました。

韓国は我が国にとって基本的な価値と利益を共有する最も重要な隣国でございます。日韓間には竹島問題あるいはまた過去をめぐる問題があるわけでございますが、日韓双方での新政権成立を機会に、21世紀にふさわしい関係、つまり、日韓両国とももはや、言わば世界の中で責任ある国として、お互いに協力をしていくことによって地域の平和と安定を維持をしていくこともできるわけでありますし、また、地域の繁栄、そして両国が協力をしていくことがまさに両国の国益であろうと。そして、お互いに、今申し上げましたように、自由、そして民主主義、基本的な人権、普遍的なこの価値を共有しているということを認識し合うことも重要であろうと、こういうことでございまして、まさに未来に向かって両国が協力をしていくことの重要性を認識し合うことが私は重要ではないかと、このように思うところでございます。

そして、先ほど委員が提起をされました未解決の問題についてでございますが、これは外務大臣が答弁をいたしましたように、1965年に締結をされました日韓請求権・経済協力協定によって完全かつ最終的に解決をされているわけでございまして、この協定が締結されるにあたって日韓で相当様々な議論がなされたわけでございまして、様々な議論が出された結果この協定が結ばれて、言わば平和条約として国交が完全に回復をしていくわけでございますが、世界には様々な紛争があるわけでございますが、そうした形で平和条約を結ぶことによってお互いに新たな歩みをしていくということでございますが、その際にも相当お互いに様々な、10年を超える議論があったということは申し上げておきたいと思います。

また、中国についてでございますが、日本としては、尖閣に対する中国の挑発的な行動は今も続いているわけでございますが、日本としてはそういう状況下にあっても対話の窓は常に開いているという立場でございます。

▼大河原:

対話の窓が開いているとおっしゃいますが、やっぱりこの朴大統領から未来世代に問題を残さないようにといわれたことにはお答えになっていません。未来世代が解決できる問題もあるかもしれないが、私たち現世代が未来世代のために解決をしなければならない問題として、例えばこの強制労働問題、補償の問題などあります。総理は全然、今課題になっているものはないとおっしゃったに等しいんですが、未処理、未解決の問題があるというお考えはないのですか。

△安倍晋三内閣総理大臣:

先ほど申し上げましたように、日韓基本条約を1965年に日韓双方で結んでいるわけでございますが、日韓基本条約を締結するに至る過程で相当お互いに様々な議論を行ったわけでございます。おっしゃっている請求権の問題についても、これは韓国側からも様々な議論がございました。その中で、日本側も様々なこれは反論、あるいは日本側の主張をしていく中において最終的な決定がなされたわけでございまして、まさに条約として結んだわけでございます。

ですから、これは、1965年に結んだ、締結をされた日韓請求権・経済協力協定においてこれは完全かつ最終的に解決をしているわけでございまして、まさにそういう協定、条約を結ぶことによって各国は過去の問題は過去の問題として新たな歩みを始めていくわけでございます。それがまさに私は人類の知恵でもないかと、このように思うところでございます。

▼大河原:

1965年に完全かつ最終的に決着したといっても、それでもその両国間のわだかまり、そして実際にその被害に遭ったことを、痛みをいまだに感じていらっしゃる方がたくさんおられるという事実があります。例えば先ほどのドイツのように、歴史的な責任、道義的な責任で解決していこうと踏み出さない限り、未来に一歩を踏み出せません。子ども世代につけを回さないのは大人の責任です。

それでは次に、日本外交の根幹について伺いたいと思いますが、外務大臣、日本外交の根幹というのは何でしょうか。

△岸田文雄外務大臣:

ちょっと質問の趣旨を十分把握しておりませんが、我が国のこの外交、国際社会としっかり連携しながら、世界の繁栄と安定、平和のために努力をしていく、これが基本的な姿勢だと認識をしております。

▼大河原:

日本外交の根幹に持っているものは、今おっしゃったように平和への願い、そして、パネルを出しますが、これは外務省のホームページにもあります。平和への願いと唯一の被爆国としての使命があるということです。そのことは私も大事なことだと思っています。

ところが、(先月の)NPT(核拡散防止条約)の再検討協議に向けた第2回の準備会で、核不使用声明に署名を見送ったと報道されました。どんな理由でこのようになっているんでしょうか。

△岸田文雄外務大臣:

今回のこの共同ステートメントにつきましては、我が国を取り巻く安全保障環境に鑑み、その表現ぶりにつき慎重かつ真剣に検討を行い、また南アフリカ等関係国とぎりぎりまで修文協議を行いましたが、残念ながら協議が調わなかったため、最終的には今回は賛同することを見送るという決定に至った次第であります。

他方、我が国は唯一の戦争被爆国として、核兵器使用の影響に関してどの国よりも実態を知っており、今回の共同ステートメントで言及のある核兵器の使用が、直後の被害のみならず社会経済や将来世代にわたって耐え難い被害をもたらす点などの基本的な考え方は支持できると考えております。

今後とも同様のステートメントに参加する可能性を真剣に探っていきたいと考えております。

▼大河原:

この署名文書の中にいかなる状況でもという文言があったので署名できなかったということですか。

△岸田文雄外務大臣:

具体的なやり取りについては控えさせていただきますが、我が国としては、唯一の戦争被爆国として、人類は核兵器の惨禍を決して忘れてはならず、人類史に刻まれたこの悲劇を二度と繰り返してはならないという立場であり、このことは様々な機会で明らかにもう従来からしてきているところであります。

他方、その本ステートメントのうち、我が国を取り巻く厳しい安全保障環境に鑑み、ふさわしい表現であるかどうかを慎重に検討した結果、今回賛同することを見送った、こういった経緯でございます。

▼大河原:

いかなる状況でも核兵器を使用しないと、きちんと言ってほしいです。そうでなければ、どんな状況なら核兵器を容認するのかと逆に聞かれてしまいます。

そんな矛盾した姿勢では、核兵器のない世界の実現に向けて、惨禍を訴える責務を果たせないと思いますけど、いかがですか。

△岸田文雄外務大臣:

まず、国際社会には核戦力を含む大規模な軍事力が存在いたします。また、核兵器を始めとする大量破壊兵器等の拡散といった危険が増大するなど、引き続き不透明、不確実な要素が存在いたします。

このような中、我が国としては、我が国自身の防衛力を強化することはもとより、日米安全保障体制の下で核戦力を含む米軍の抑止力を高めることにより自国の安全を確保する必要があると考えております。

今回の共同ステートメントの当該部分の表現ぶりは、この核抑止の考え方を含む我が国の安全保障政策がよって立つ前提と必ずしも相入れず、この点を含め慎重に検討した結果、前回に引き続き今回も賛同することを見送った、こういった次第でございます。

▼大河原:

核の使用はどんな状況でも容認はできないはず。核の保有が抑止力になるということを大声で言い続けると、核をなくしていくことにはならないですよね。この核廃絶という大目標を見失わないために、日本が、軍縮、核不拡散における主導的な取り組んだ実績がありこれが日本の貴重な外交資産だと言うならば、こうした矛盾を解消するように、そしてこの解消していく努力をしっかり国民に見せられるようにしていただきたいと思います。若い人たちが誇りと自信を持って、唯一の被爆国である日本から、核の悲惨さを伝え、なくしていこうと世界に発信できるようにしていただきたいと思います。

大臣は、ユース非核特使の派遣を発表されていますけれども、具体的な役割と活動について伺います。 

△岸田文雄外務大臣:

まず、我が国は、唯一の戦争被爆国として核軍縮、核廃絶に向けてリーダーシップを発揮しなければいけない、こういった立場に立たなければならない国だと認識をしております。そして、そのために現実的な方策を積み重ねていかなければならない。そういったことで、NPDI等、こうした各国との枠組みを通じて、具体的な、現実的な歩みを進めている、これが我が国の立場であります。

今回のステートメントにつきましても、基本的な考え方については我々は支持できると考えていますが、是非、このステートメント、参加する可能性は今後ともしっかり探っていきたいと考えております。

そして、ユース非核特使について御質問をいただきました。

従来から、我が国の提案で非核特使という制度が存在しました。被爆の実相を広く世界に知っていただくために、この非核特使という特使を任命して活動していただく、こういった制度が存在をいたしました。しかしながら、被爆者の高齢化が進み、非核特使として活躍し得る方が減少していると、こういった現実があります。

そうしたことから、このユース非核特使制度ということで、核兵器のない世界の実現に向けて社会の関心を更に喚起すべく、若い世代の力により核兵器使用の惨禍の実相を将来世代に伝えていくことを目的に提唱したものであります。ユース非核特使として活躍いただく若い世代の方々には、この被爆の実相を含めて、核兵器のない世界の実現に向けて何ができるか、自ら学び、また考えたことを世界に発信していただくことを期待しております。具体的な役割、活動については、関係方面と調整しつつ検討していきたいと考えています。

▼大河原:

広島、長崎、それに続いて福島というふうに第三の被曝まで私たちは世界から見つめられています。平和利用と言ってきたプルトニウムを生み出す原子力が問われているということを御自覚いただきたいと思います。
最後の質問は、政府における外交以外に、自治体のレベルまた市民レベルの外交が必要不可欠です。自治体としては、非核自治体宣言しているところが大半(自治体総数比87.5%)です。今年の8月NGOが集うこうした平和市長総会が開かれるということもありますので、先ほどのステートメントには積極的に参加できるような、そういう措置をぜひお願いをしたいと思います。

NGO、市民レベルの外交、自治体レベルの外交が私は不可欠だと思っています。気候変動枠組条約、COP15以来、NGO、産業界からも労働界からも政府代表団に参画いただいてきました。しかし、このような参画を安倍政権ではストップした、中止したと聞いておりますけど、これはどうしてでしょうか。

△岸田文雄外務大臣:

気候変動の分野におきましてこのNGOが重要な役割を果たしているということ、及びこのNGOとの協力の意義に関する政府としての認識、これは従来と変更はございません。これまでと変わらず、NGOとも協力してオールジャパンで気候温暖化防止に取り組んでいく方針であります。

その中で、今般、4月29日に事務レベルの会合が行われましたが、従来から我が国のこの政府代表団の登録者数、アメリカの2倍以上の多くの人数を送り込んでいることから、今回の事務レベル会合におきましては、効率性の観点からこの政府代表団登録数を絞り込み、整理することといたしましたが、これまで以上に政府からの情報提供の場、あるいはNGOとの意見交換を密に行う機会、こういったことを増やすことにより、引き続きNGO等からの理解を得つつ交渉に臨んでいきたいと考えております。

▼大河原:

非常に残念です。今まで築いてきた政府と市民社会の対話というものをしっかり守り続けていただきたいと思います。

ご答弁では余りにも人数が大きくなっていたからということですが、しっかりと切り開いてきた参画の機会というのは国民からの信頼の道でもありますので、市民社会との連携に信頼をなくさないように要望をして、終わります。