第183国会 2013(H25)年5月15日予算委員会

▼大河原雅子:

5月8日に、この予算委員会で質疑をさせていただきました。総理が、侵略の定義については学説が定まっていないというお答えがあり、総理の歴史認識について多くの方々が関心を持ち、日本国内に限らず近隣諸国、国際的にも注目をされております。私は、5月8日の質問で、まず、戦争とは何だったのか、ユネスコ憲章から説き起こして総理にお尋ねをいたしました。総理、ユネスコ憲章覚えていらっしゃいますか。戦争とは何でしょうか。ご自分のお言葉で戦争とは何か、ご感想なりご意見なり承れればいいと思います。

 

△  安倍晋三内閣総理大臣:

まさに、戦争とは何かという重い問いかけでございますが、まさにこれは戦争とは国家と国家が戦火を交えることであり、そしてそれは、近代においてはその結果、多くの無辜の民、両国の国民を始め多くの無辜の民が戦争に巻き込まれ死傷していく、そしてその結果、その戦後も含めて塗炭の苦しみのなかに落とされてしまうということであって、まさに近代、現代の人類にとって、この戦争を廃絶していくことこそ私たちの努力の言わば目的であろうと。そのために国連をつくり、いかに戦争を防止するかという努力をしてきているところであります。

 

▼  大河原雅子:

戦争は人の心の中で生まれる。だから、人の心のなかに平和のとりでを築かなければならない―私は、このユネスコ憲章が大好きだと申し上げました。日本は国連に加盟をする前にユネスコの加盟を認められました。私たちのこの国が父や母の世代に戦争で他国を巻き込んだこと、20世紀が戦争の世紀であったことを一番重く受けとめなければならないと思います。そして、このユネスコ憲章に表れているように、二度と戦争を起こさない、それはもちろん国連憲章もそうですけれども、そういう立場に総理もおられるわけですし、私も一議員ではありますが、その立場に立っています。総理よりは私は一つ年上ですけれども、昭和20年代の最後の方の生まれですから、戦後10年も経たないうちにこの世に生を受けました。私は、父が職業軍人を目指していて、幼年学校から士官学校へ行き、そして父は8月15日を、士官、少尉になる手前で戦地に行かない立場で迎えました。その後、本当にこの戦争が何だったのか、言わば人間不信に陥るような心の葛藤が20代の世代の若者たちのなかにありました。立場によって、色々考え方は変わってくると思いますが、一人一人が親から受け止めた歴史、他の大きな歴史のなかで、どういうふうに自分自身の歴史認識として育っていくのか、そのことは非常に重要だと思います。おそらく同じ時代ですから、例えば教科書から学ぶことや、様々な情報の取り方は違うかもしれませんが、その時点であった情報はおそらく同じだろうと思います。そして今、総理がお立場として、この国の総理として今この歴史認識を問われているとき、歴史認識は個人的には完璧に一致することはないと思います。しかし、その歴史認識は違うんじゃないか、あるいはそこに疑問を持たれて痛みを感じていらっしゃる方たちがおられるときに、その方たちの痛みを理解できるかどうかは極めて重要だと思っています。ユネスコそしてまた国連に加盟している国々は、そういう意味では一つの歴史認識を共有しています。戦争は起こさない。侵略戦争であっても植民地の戦争であっても、戦争で正しいという戦争はない。そしてその中で、被害を被った方たちを極力救済していくところに立っているのだと私は確信をしています。

今朝もやり取りがありましたが、総理の歴史認識について海外からも危惧をされています。特に総理が大事になさっている日米同盟のパートナーであるアメリカからも非常に厳しい関心の目を向けられています。ここで、村山談話、河野談話をしっかり継承していくと、国民に向けてお答えをいただきたいのですが、いかがでしょうか。

 

△  安倍晋三内閣総理大臣:

今、委員からユネスコ憲章についてのお話もございました。戦争についての認識は先ほど申し上げたとおりでございますし、委員のお父様のことをお話されましたが、私の父方の祖父は安倍寛といいまして、翼賛選挙に言わば反対をして、翼賛会ではなく非翼賛会として当選をした数少ない議員でもございましたし、反東条政権を貫いた議員でもありました。そして、私の父は志賀航空隊において特攻隊の予備軍であったわけでございます。そういう話を父からも私は受けついでいるわけでございますが、そこで村山談話については、これは過去の政権の姿勢、これは村山談話に対する姿勢として小泉政権があったわけでございますし、今、小泉談話が出されているわけでございますが、これはもう官房長官からお答えをさせていただいているように、言わば政権としては全体として受け継いでいくということでございます。そして、官房長官談話につきましては、これは官房長官からお答えをするのが適切であるというのが政権としての考え方、立場でございます。

 

▼  大河原雅子:

総理談話、官房長官談話と分けてお答えになるんですが、安倍内閣、安倍政権として閣内は一つの意見にまとまると思っております。今、お答えは別々だったんですが、村山談話、河野談話、共に継承していくというのが安倍政権の統一見解でよろしいでしょうか。

 

△  安倍晋三内閣総理大臣:

これは、累次お答えさせていただいておりますように、村山談話につきましては、我が国はかつて多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた、その認識においては安倍内閣としても同じであり、これまでの歴代内閣の立場を引き継ぐ考えであります。いわゆる村山談話は戦後50年を機に出されたものであり、また、戦後60年に当たっては当時の小泉内閣が談話を出しているわけでございまして、当然、累次に出された談話については、その時々の内閣が出された談話でございまして、その上においてしかるべき時期に21世紀にふさわしい未来志向の談話を発表したいと考えているわけでございますが、そのタイミングと中身につきましては、今後十分に考えていく立場でございます。そして、河野談話につきましては、いわゆる慰安婦問題につきましては筆舌に尽くし難いつらい思いをされた方々のことを思い非常に心が痛むわけでございまして、この点についての思いは私も歴代の総理と変わりはないわけでございまして、いずれにせよ、私としてはこの問題を政治問題、外交問題化をさせるべきではないと考えております。このいわゆる河野談話は、当時の官房長官、河野官房長官によって表明されたものであり、この点については総理である私から申し上げるのではなく、官房長官からお話をさせていただきたいと、このように思うところでございます。

 

▼  大河原雅子:

総理にお答えいただきましたので、内閣の皆様はそういった意味では総理の今の言葉でしっかりと統一されたと思いたいです。ただ、大臣のなかには、例えば稲田大臣は政治家として、村山談話と河野談話の撤回を最大の課題にしているとおっしゃっていまして、おひとりひとりの政治家の理念というものはあろうかと思いますが、今の総理の答弁がそれをきちんとカバーしていく、そのように理解してよろしいでしょうか。そして、高市政調会長も村山談話の侵略という部分についてはしっくりこないとおっしゃっていましたが、それは政府としても、そしてまた与党自民党のなかでもどのように扱われているのか、教えていただきたいと思います。

 

△  安倍晋三内閣総理大臣:

もちろん私は今、内閣総理大臣としてお答えをしているわけですから、これは安倍内閣の考え方を申し上げているわけでございます。高市政調会長の発言いついて、私もつまびらかには承知はしてないわけでございますが、いずれにせよ、内閣としての考え方は今申し上げたとおりでございます。

 

▼  大河原雅子:

これまでのご発言もあるので、今のことではすっきりとはならないです。やはり国際的な評価というものはされてしまうわけなので、その意味では、極力、今日の答弁あるいはこれから先の答弁も変わっていくのかなと私は期待をさせていただきます。ところで、これは昨年来、安倍政権にとっても有り難迷惑というか、変な援護射撃になっているのではないかと思いますが、憲法改正問題では協調されると聞いております、日本維新の会代表の橋下共同代表が物議を醸す発言をされています。従軍慰安婦は必要だとか、あるいは米軍に対して風俗業の活用を図ったらどうかと言っていますが、総理、このことについてどのような感想をお持ちですか。

 

△  安倍晋三内閣総理大臣:

慰安婦の問題についての立場は、今も申し上げましたように、慰安婦の方々がされたであろう筆舌に尽くし難いつらい思いに心から同情している立場でございまして、この橋下代表の発言、私も新聞で読む限りでございますが、もちろんこれは我々とは立場が違うわけでございます。その上において、いちいちこれは他党の党首の発言についてコメントする立場にはないということを申し上げておきたいと思います。

 

▼  大河原雅子:

私も、他党のということはよくわかります。しかし、憲法改正、基本的人権、平和主義、そして国民主権、このことをしっかりと守っていかなければならない、その意味合いが込められている憲法を一緒に変えようとしていらっしゃる、そういう政党の方々に、どのくらいの差があるのかということが私は問題だと思っているのです。私は都議会議員をしておりましたので、石原共同代表が、以前から女性蔑視の発言は目に余っております。そして、今日ここにその橋下共同代表を庇うようなご発言もあって、石原共同代表の女性蔑視、人権無視の発言などは、男性にとっても非常に侮辱的な発言だったと思いますが、どう思われますか、その点は。

 

△安倍晋三内閣総理大臣:

先ほど申し上げましたように、私の、また安倍内閣の、あるいは自民党の立場とはまったく違う発言であることをはっきりと申し上げておきたいと、このように思います。その上において、言わば他党のあるいは共同代表の発言について私はコメントする立場にはないわけでありまして、申し上げなければならないことは、まさに20世紀というのは戦争の世紀であり、あるは女性の人権が著しく侵害もされた世紀であると、21世紀はそういう世紀にはしないというのが私たちのまさに決意であるわけでありまして、我々もその決意を持っているということでございます。

そして、その中において、私の発言に問題があったということであれば、いろいろなお話もさせていただきたいと、ここで答弁をさせていただくところでございますが、今、正確な石原共同代表の発言も私も知りませんので、ここで論評することは適切ではないだろうと思います。

 

▼  大河原雅子:

総理と橋下共同代表、維新の会の共同代表の価値観というのは違うだろう、違ってほしいと思っています。次に移りたいと思います。

総理は、激論を闘わせても最後はまとまるのが自民党、これが伝統だともおっしゃいました。それが良いところともおっしゃいました。しかし、ともすれば、国民に対してちゃんと説明ができるかどうかはどこで問われるのかということがあると思います。「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない。」、これは主に北海道で撮った2枚の写真、ポスターのことばです。昨年の総選挙に向け貼られていたものです。また工業地域があるところでは、「TPPへの交渉参加に反対!」と、聖域なき関税撤廃には反対ということで、J-ファイル(自民党総合政策集)にも書いてあるよとおっしゃっていますが、下はマニフェストどおり、上はそういう意味では全然公約と違うことを掲げておられました。総理が先日、オバマ大統領と確認をされてきたことは、聖域がない、TPPの原則というものを変えさせたというような印象を持つ発言、あるいは報告をされているわけです。TPPの原則とは何でしょうか。総理に伺います。

 

△  甘利国務大臣:

当時、私は政調会長をやっておりまして、広報にもきちんと目配り、気配りしていたつもりであります。そこに書いてありますTPP、こういう前提とするTPPには反対ということでありまして、それは聖域なき関税撤廃が大前提になっていると、最初からなっている、そういうものについては、反対という意味で、それを道連なり県連としてお書きになったんだというふうに思っております。TPPの原則は、参加国がお互いに歩み寄って、できるだけ高いレベルの通商交渉をするということであります。

 

▼  大河原雅子:

私は、TPPを慎重に考える会という議員の集まりで事務局長をしてきました。2年にわたっていろいろな勉強をさせていただきましたが、まず、このTPPというのは、これまでにない経済協定。それは、10年間のうちに関税をゼロにする、そして全てのサービスや非関税障壁もなくしていく、そのために関税をいつの時点でゼロにするかを交渉の中で決めていく。そして、もう一つ許される交渉次第の中身は、関税を段階的になくしていくその時期と、それからセーフガード、緊急の輸入阻止、それを発動するその設定であると、わたしはUSTRから直接伺ってきておりますので、これはもう大原則で、これまで交渉してきた方たちはこの原則に乗ってやっています。事前の協議で日本が約束をしてきたことについて、アメリカは勝利宣言したかのように、様々、入場料を払ってもらったと言っていますが、日本は何かとれたものがあるのでしょうか。

 

△  甘利明国務大臣:

日英間でもTPP交渉は始まってまだいないんであります。二国間の通商対話ということの延長線上でアメリカの関心事項について提示をされました。それをTPP交渉が始まったときから具体的にやりましょうということになっています。自動車関税につきまして、じゃ、何が取れたかといいますと、それはもう、アメリカの自動車の関税が最終的にはゼロになるということはアメリカ側が約束したことであります。私どもが、じゃ、約束したかと、よく言われますけれども、自動車の輸入の簡易手続措置についてであります。これ2000台から5000台に拡大をした。罰にこれはアメリカに対してだけやったわけじゃないわけでありまして、ヨーロッパ、EUに対しても同じことをやっているわけでございまして、TPPの中でこれを日本はこうしたということはまだございません。ただ、両国が関心ある事項を協議してきましょうと、その結論をTPPが決着するときまでに鋭意努力して出しましょうということであります。

 

▼  大河原雅子:

それでは、まだTPPに入っていないわけで、この二国間の協議の中身というのは法的な拘束力がありますか。そして、あるとすればそれはいつから発効するのでしょうか。

 

△  甘利明国務大臣:

並行協議であります。TPPが始まったとき協議し、終わったとき協議が終わるようにしていくと。基本的にこのTPPと関連してこの並行協議があるというふうに理解をいたしております。

 

▼  大河原雅子:

では確認ですが、万が一TPPが壊れてこの二国間協議だけが残る、二国間で決めたことだけが残るということはないんですね。

 

△  甘利明国務大臣:

常識的に言いますと、その時点でもう一度再協議ということになるんではないかと思います。TPP自身がまったく機能しないということになった場合、じゃ、この二国間はどうするんだという議論になろうかと思います。

 

▼  大河原雅子:

オバマ大統領はこのTPPは大事ということで、アジア太平洋地域の経済連携はTPPだけではありません。日本は、例えば中国や韓国やインドや様々なところとも関係があるわけで、総理も一番大事に思っていらっしゃるのはどれでしょうか。どの経済連携でしょうか

 

△  安倍晋三内閣総理大臣:

TPP交渉参加とアジア全体の経済連携についてのご質問だと、このように思いますが、TPP交渉への参加はアジア太平洋地域の成長を日本に取り込むことにつながるものでありまして、我が国の成長戦略の柱と言ってもいいと思います。ご指摘のアジアということについていえば、いわゆるRCEPがございますが、RCEPについてはASEANプラス3や6の構想を踏まえたものでございますが、5月9日から13日まで第1回の交渉会合が開催をされました。RCEPもTPPとともに、更にFTAAPという広い地域を包み込む、包括的な、かつ高いレベルの協定を目指して精力的に交渉を進めてきたい、つまりTAAPの実現に寄与する地域的取組みであると、こう考えております。

 

▼  大河原雅子:

総理は先日の答弁で、このTPPでも食の安全をしっかり守る、遺伝子組み換えの表示も守りきる、そのために指示を出したとおっしゃいました。韓国の例で言えば、米韓FTAの中では、交渉の中に、本体の中には直接入ってきませんでしたが、それ以前に、実は遺伝子組み換えに関する覚書というのがFTA妥協直前にアメリカから示されて、これをのまなければ妥結はしないといわれて韓国はそれをのみ、全ての食品に表示をするという立法予告までしていた事柄を実施できなかった。これはもう内政干渉の最たるものだと思いますが、自分の国で決められなくなるわけです。よもや、今、この覚書など日本が受け取っていることもなければ、事前に、そのことがTPPの妥結寸善に出てきたときにどうするのかということが問われますが、総理はこれ、どのように体制を、反論をする、打ち返していく体制を整えておられるんでしょうか。

 

△  安倍晋三内閣総理大臣:

これは経済交渉ですから、最後まで自分の国の国益を最大限に確保しようと厳しい交渉をしているわけであります。しかし、このTPPにおいては、自由民主党はJ-ファイルにおいても食の安全をしっかりと守っていくということを国民の皆様にお約束をしているわけでございまして、食の安全、安心や消費者の健康、まさにこれは日本にとって最大の国益であると、私はそう考えています。交渉当事者について、この点については絶対に譲るべきではないと、私はそう考えています。交渉当事者について、この点については絶対に譲るべきではないと指示をしておりまして、私の指示を念頭に日本の強力な交渉チームは交渉いたします。

 

▼  大河原雅子:

ありがとうございました。