質問主意書09.06.22(質問第212号)
八ッ場ダムの発電用導水路等に関する質問主意書・答弁書の内容
本年5月29日に「供用開始遅延ダムおよび八ッ場ダム等に関する質問主意書」を提出し、これに対して政府から6月9日に答弁書(内閣参質171第186号。以下「本答弁書」という。)が送付されたが、本答弁書には疑問点がいくつかあるので、それらについて再度質問を行う。また、八ッ場ダム事業はベールに包まれたまま進められている事業である。たとえば、最近報道された八ッ場ダム発電用導水路はその事業の意味、実現性、事業主体などが不明のものである。八ッ場ダムに関わるこれらの疑問点についても質問するので、真摯に答えられたい。なお、回答は誰もが分かる平易かつ明解な言葉で説明されたい。
Ⅰ 本答弁書に関して
1 供用開始遅延ダムについて
(1) 大滝ダムおよび滝沢ダムにおける完成予定年度の遅延年数について
▼質問Ⅰ‐1‐(1):
大滝ダムおよび滝沢ダムでは試験湛水中に地すべりが発生したため、ダムの完成予定年度が延期され、それぞれ平成24年度末、平成22年度末となったとのことであるが、試験湛水開始前の計画と比べて、それぞれ完成予定が何年遅れることになったのかを明らかにされたい。
△答弁:
御指摘の「完成予定」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、大滝ダムの試験湛水を開始した時点における大滝ダム建設事業の完成予定年度は平成14年度であり、現時点においては平成24年度である。また、滝沢ダムの試験湛水を開始した時点における滝沢ダム建設事業の完成予定年度は平成19年度であり、現時点においては平成22年度である。なお、滝沢ダムについては、独立行政法人水資源機構に対する水資源開発事業交付金において滝沢ダムの管理業務に係る予算を平成20年度から計上しており、同機構において施設の操作、維持、修繕その他の管理を実施していると聞いている。
(2) 大滝ダムおよび滝沢ダムの総事業費について
▼質問Ⅰ‐1‐(2):
大滝ダムおよび滝沢ダムの地すべり対策工事の事業費はそれぞれ約308億円、約145億円とのことであるが、これにより、大滝ダムおよび滝沢ダムの総事業費がそれぞれ何億円から何億円に増額されたのかを明らかにされたい。
△ 答弁:
大滝ダムの試験湛水を開始した時点において見込んでいた大滝ダム建設事業の全体事業費は約3,210億円であり、現時点においては御指摘の「約308億円」を含む約3,640億円である。また、滝沢ダム建設事業の全体事業費は滝沢ダムの試験湛水を開始した時点から変更していない。
2 八ッ場ダム事業の工事進捗状況等について
(1) 付替国道の完成区間について
▼質問2‐(1):
付替国道の完成区間は平成20年度末で約600メートルとあるが、一方、平成21年2月6日付けの政府答弁書(内閣参質171第19号)によれば、平成19年度末で約600メートルである。1年経ったにもかかわらず、付替国道の完成区間は増えていない。その理由を明らかにされたい。
△答弁:
御指摘の「付替国道」は、平成22年度末までに工事の完了を予定しており、用地買収及び工事を順次進めているためである。
(2) 八ッ場ダム事業の水没予定地の居住戸数について
▼質問2‐(2):
平成20年度末における八ッ場ダム事業の水没予定地の居住戸数を地区別(川原畑、川原湯、林、横壁、長野原)に明らかにされたい。
△答弁:
御指摘の「八ッ場ダム事業の水没予定地」に居住している世帯数は、国土交通省が把握している限り、平成20年度末現在、川原畑地区で18世帯、川原湯地区で55世帯、林地区で1世帯、横壁地区で5世帯、長野原地区で4世帯である。
(3) 八ッ場ダム事業の水没予定地以外の移転予定地の居住戸数について
▼質問2‐(3):
平成20年度末における八ッ場ダム事業の水没予定地以外の移転予定地の居住戸数を町別および地区別(川原畑、川原湯、林、横壁、長野原、東吾妻町)に明らかにされたい。
△答弁:
八ッ場ダム建設事業による移転の対象であり、かつ、御指摘の「八ッ場ダム事業の水没予定地以外の移転予定地」に居住している世帯数は、国土交通省が把握している限り、平成20年度末現在、川原畑地区で0世帯、川原湯地区で0世帯、林地区で8世帯、横壁地区で2世帯、長野原地区で15世帯、群馬県吾妻郡東吾妻町で5世帯である。
3 特定多目的ダム法のかんがい用水の受益者負担金について
▼質問3:
特定多目的ダムについては特定多目的ダム法第10条により、かんがい用水の受益者はダム建設費の一部を負担しなければならないとされているので、都道府県がその受益者負担金を肩代わりすることがあれば、同法に抵触することになる。このことについて「国土交通省としては、都道府県の条例で受益者負担金を免除することを定めた事例は承知していない。」との答弁があったが、特定多目的ダム法第10条の規定の趣旨は「都道府県が条例を定めてかんがい用水の受益者に負担させる」ことにあるのであって、「条例で受益者負担金を免除すること」とは規定されておらず、本答弁は同条の規定から外れた答弁になっている。都道府県が条例を定めて特定多目的ダムの建設費の一部をかんがい用水の受益者に負担させることを行っていない場合、特定多目的ダム法に抵触することになるのではないかと考えられるが、このことについての見解をあらためて示されたい。
△ 答弁:
前回答弁書(平成21年6月9日内閣参質171第186号)4の1についてでお答えしたとおり、国土交通省としては、都道府県による受益者負担金の徴収状況について把握しておらず、御指摘の「都道府県が条例を定めて特定多目的ダムの建設費の一部をかんがい用水の受益者に負担させることを行っていない場合」が具体的にどのような状況であるのかについても把握していないため、お尋ねについて一概にお答えすることは困難である。
Ⅱ 八ッ場ダムの発電用導水路に関して
▼質問Ⅱ:
今年5月27日付けの上毛新聞の1面に「発電量確保へ前進 八ツ場ダムで東電と国交省導水路建設を協議」という表題の記事が国土交通省関東地方整備局河川部のコメント付きで掲載された。この八ッ場ダム発電用導水路計画案は内容が不透明のままであるので、それについて以下のとおり質問する。
1 群馬県営の八ッ場発電所から東京電力株式会社(以下「東電」という。)の松谷発電所までの導水路を建設することになっているが、この導水路を建設する事業主体はどこか。
2 完成後の導水路はどこが所有し、どこが管理を行うのか。
3 新聞報道によれば、この導水路が完成すると、毎年数千万円の固定資産税が東吾妻町に支払われる見込みだとのことであるが、どこが固定資産税を払うのか。
4 この導水路の建設にはおよそどの程度の費用がかかる見通しか。
5 発電用導水路の建設は八ッ場ダム建設事業の一部として行うものなのか。
6 県営八ッ場発電所は従属発電であって、流量維持や利水補給などのためにダムから放流した水を発電にも使うものである。八ッ場ダムの計画ではダムから放流される水量は通常は流量維持の毎秒2.4立方メートルだけとなっているが、この2.4立方メートルは吾妻渓谷など、吾妻川の流量維持のために流すものであるから、東電の発電所に送ることはできないと考えられる。このことに関して国土交通省の見解を示されたい。
7 八ッ場ダムから毎秒2.4立方メートルを超える放流がある場合のみ、一定の範囲で八ッ場発電所から導水路で東電の発電所に送水することが可能となるが、それがどの程度あるかが問題である。過去の流量データを用いた八ッ場ダムの運用計算では、この導水路による送水量が平均で毎秒何立方メートルとなるのかを明らかにされたい。
8 現在の東電発電所は電力需要に合わせ、同時に川の流況を見ながら、運転を行っているが、導水路を通して県営八ッ場発電所経由の水を使うとなると、あくまで従属発電であるから、松谷発電所とそれより下流にある東電の発電所は電力需要に合わせた運転ができなくなると考えられる。このことに関して国土交通省の見解を示されたい。
9 この導水路計画案は八ッ場ダムの建設に伴う東電への減電補償額を減らすために考えられたものであると推察されるが、以上の点を踏まえると、この導水路計画案の実現性に疑問を持たざるを得ない。この実現性に関して国土交通省の見解を示されたい。
△答弁:
御指摘の「八ッ場ダムの発電用導水路」については、その建設が行われるか否かも含めて詳細が決まっていないこと等から、お尋ねについてお答えすることは困難であるが、いずれにしても、渇水時にも安定的に一級河川利根川水系吾妻川に維持流量を確保するため、八ッ場ダムの直下流において毎秒2.4立方メートルの流量を確保する予定としている。
Ⅲ 八ッ場ダムの国有資産等所在市町村交付金に関して
八ッ場ダムが完成した場合は国有資産等所在市町村交付金法(以下「市町村交付金法」という。)に基づき、ダム等の国有資産について固定資産税に相当する国有資産等所在市町村交付金(以下「市町村交付金」という。)が地元の町に交付されるとされている。これについても不明な点が多々あるので、以下のとおり質問する。
▼ 質問Ⅲ‐1:
八ッ場ダムが完成した場合、市町村交付金はどこが支払うのか。市町村交付金法に基づいて支払う責任があるところをすべて明らかにされたい。
△答弁:
国有資産等所在市町村交付金法(昭和31年法律第82号)第2条第1項及び第12条の規定により、国土交通大臣が国有資産等所在市町村交付金(以下「市町村交付金」という。)を交付することとなる。
▼ 質問Ⅲ‐2:
八ッ場ダムが完成した場合、市町村交付金が交付されるのは長野原町のみか。
△答弁:
八ッ場ダムに係る市町村交付金は、群馬県吾妻郡長野原町に交付することとなる。
▼ 質問Ⅲ‐3:
八ッ場ダムの場合、市町村交付金の基準額となるのは、建設事業費4,600億円のうちのどの部分か。ダム構築物分(家屋および償却資産)と土地分のそれぞれについてその基準額の金額とその計算根拠を明らかにされたい。
※答弁は下記Ⅲ‐5下をご参照ください。
▼質問Ⅲ‐4:
右記の基準額から、毎年の市町村交付金を求める計算手順を明らかにされたい。
※答弁は下記Ⅲ‐5下をご参照ください。
▼質問Ⅲ‐5:
八ッ場ダムが完成した場合、毎年の市町村交付金はいくらになるのか。ダム完成1年後、6年後、11年後、16年後、21年後のそれぞれの交付金額を計算した結果を示されたい。
△答弁:
御指摘の「市町村交付金の基準額」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、八ッ場ダムに係る国有資産等所在市町村交付金法第3条第2項に規定する交付金算定標準額は、同法等の規定に基づき、八ッ場ダムの用に供する土地の取得に要した費用の額等を用いて固定資産の価格を算定して求め、市町村交付金として交付すべき金額は、同法第3条第1項の規定に基づき、当該交付金算定標準額に100分の1.4を乗じて得た額となるが、これらの具体的な金額については、現時点では確定していない。
▼ 質問Ⅲ‐6:
市町村交付金が自治体に交付される場合、その自治体の地方交付税はどのような扱いになるのかを明らかにされたい。また、その自治体の基準財政需要額の算定において市町村交付金はどのように扱われるのかも明らかにされたい。同時にそれらに関する根拠規定も示されたい。
△答弁:
各地方公共団体に対して交付すべき普通交付税の額は、地方交付税法(昭和25年法律第211号)第10条第2項の規定により、当該地方公共団体の基準財政需要額が基準財政収入額を超える額とされており、市町村交付金が交付される地方公共団体については、同法第14条第1項及び第2項の規定により、国有資産等所在市町村交付金法第3条第1項に規定する率の100分の75に相当する基準率をもって算定した市町村交付金の収入見込額を基準財政収入額に算入するものとされている。また、市町村交付金の交付は、当該地方公共団体の基準財政需要額の算定には影響しない。