質問主意書09.05.29(質問第186号)

供用開始遅延ダムおよび八ッ場ダム等に関する質問主意書・答弁書の内容

奈良県の大滝ダムや埼玉県の滝沢ダムはダム本体が完成したものの、試験湛水後に大規模な地割れが起き、いまだに供用開始ができない状態になっている。これらは、地質が脆弱なところにダムをつくってはならないという鉄則を守らなかったことによるものであり、八ッ場ダムはまさしくダム本体が完成しても大滝ダムのような経過を辿る可能性が高いダムである。そして、この八ッ場ダムについては新しい費用便益比の計算結果が今年2月に発表されたが、その計算方法は先に結論ありきのきわめて恣意的なものである。今回は、このような供用開始遅延ダムの問題や、八ッ場ダム事業の費用便益比計算など、ダムの諸問題について以下質問するので、真摯に答えられたい。なお、回答は誰もが分かる平易かつ明解な言葉で説明されたい。

Ⅰ 供用開始遅延ダムについて

1 奈良県の大滝ダム(直轄ダム)について

▼質問Ⅰ‐1‐(1):

大滝ダムは平成14年8月にダム本体が完成したが、その後の試験湛水で地割れを起し白屋地区の住民は全戸移転を余儀なくされた。その後、対策工事が行われてきているものの、いまだに供用開始になっていない。大滝ダムの供用開始予定年月を明らかにされたい。

△答弁:

お尋ねの「供用開始予定年月」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、大滝ダムの堰堤維持費について初めて予算を計上する予定の年度は、平成25年度である。

▼質問Ⅰ‐1‐(2):

大滝ダムにおいて供用開始までに行われる予定の地すべり対策工事の内容とその対策工事の全事業費およびその負担割合(国、県、受水予定者)を明らかにされたい。なお、対策工事の内容は白屋地区、大滝地区、迫地区などの地区別に示されたい。

△答弁:

御指摘の「供用開始」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、白屋地区及び大滝地区においては押え盛土工、鋼管杭工等、迫地区においては押え盛土工、アンカー工等の地滑り対策工事を行うこととしている。当該地滑り対策工事の事業費は約308億円であり、お尋ねの「負担割合」は、特定多目的ダム法(昭和32年法律第35号)第4条に基づく大滝ダムの建設に関する基本計画に定める治水に係る費用の負担者として、国、奈良県、和歌山県がそれぞれ55.44パーセント、7.48パーセント、16.28パーセント、利水に係る費用の負担者として、奈良県、和歌山県、和歌山市、橋本市、関西電力株式会社がそれぞれ10.15パーセント、1.30パーセント、5.95パーセント、2.90パーセント、0.50パーセントである

▼  質問Ⅰ‐1‐(3):

今後、大滝ダムの供用開始が現在の予定時期よりもさらに延長されることはないのか

その可能性を明らかにされたい。

△答弁:

御指摘の「供用開始」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、大滝ダム建設事の工期を延長することがないよう、現在予定している地滑り対策工事等を着実に実施していくこととしている。

▼  質問Ⅰ‐1‐(4):

大滝ダムは貯水池周辺の地質の見通しが甘かったため、完成時期が大幅に延び、対策工事に多額の費用が必要となったのであるが、このことについて当時のダム計画担当者がどのような責任を取ったのかを明らかにされたい。

△答弁:

大滝ダムの貯水池周辺における地滑り調査については、ダム建設等の場合の調査として一般的に採用されている調査方法によって適切に行っていたところ、当該調査によって得たデータからは湛水に伴って地滑りが発生する可能性があるとは判断できなかったことから、ダムの貯水池周辺での地滑りの発生を予見していなかったものであり、「見通しが甘かった」とは考えていない。

2 埼玉県の滝沢ダム(水資源機構ダム)について

▼  質問Ⅰ‐2‐(1):

滝沢ダムは平成17年10月にダム本体が完成したが、その後の試験湛水で地割れを起こし、対策工事が行われてきているものの、いまだに供用開始になっていない。滝沢ダムの供用開始予定年月を明らかにされたい。

※ 答弁は下記Ⅰ‐2‐(3)下をご参照ください。

▼  質問Ⅰ‐2‐(2):

滝沢ダムにおいて供用開始までに行われる予定の地すべり対策工事の内容とその対策工事の全事業費およびその負担割合(国、県、受水予定者)を明らかにされたい。

△  答弁:

御指摘の「供用開始」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、滝沢ダムの貯水池周辺の滝ノ沢地区、遊仙橋地区及びノウ沢地区においては、アンカー工、地下水排除工等の地滑り対策工事を行うこととしている。当該地滑り対策工事の事業費は約145億円であり、お尋ねの「負担割合」は、独立行政法人水資源機構法(平成14年法律第182号)第13条に基づく滝沢ダム建設事業に関する事業実施計画に定める治水に係る費用の負担者として、国、埼玉県、東京都がそれぞれ38.29パーセント、6.14パーセント、10.27パーセント、利水に係る費用の負担者として、埼玉県、東京都、東京発電株式会社がそれぞれ36.7パーセント、8.4パーセント、0.2パーセントである。

▼質問Ⅰ‐2‐(3):

今後、滝沢ダムの供用開始が現在の予定時期よりもさらに延長されることはないのか、その可能性を明らかにされたい。

△  答弁:

お尋ねの「供用開始予定年月」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、独立行政法人水資源機構(以下「機構」という。)に対する水資源開発事業交付金において滝沢ダムの管理業務に係る予算を初めて計上した年度は、平成20年度である。なお、機構においては、平成22年度までを工期として地滑り対策工事等を実施しているところであり、当該工期を延長することがないよう、当該地滑り対策工事等を着実に実施していくこととしていると承知している。

▼質問Ⅰ‐2‐(4):

滝沢ダムは貯水池周辺の地質の見通しが甘かったため、完成時期が大幅に延び、対策工事に多額の費用が必要となったのであるが、このことについて当時のダム計画担当者がどのような責任を取ったのかを明らかにされたい。

△答弁:

機構によると、機構が行った滝沢ダムの貯水池周辺における地滑り調査については、ダム建設等の場合の調査として一般的に採用されている調査方法によって適切に行っていたところ、当該調査によって得たデータからは湛水に伴って地滑りが発生する可能性があるとは判断できなかったことから、ダムの貯水池周辺での地滑りの発生を予見していなかったものであり、「見通しが甘かった」とは考えていないとのことである。

3 全国の供用開始遅延ダムについて

▼質問Ⅰ‐3‐(1):

大滝ダムや滝沢ダムのようにダム本体は完成したが、地割れ等の問題で供用開始が遅れているダムは他にもあるのではないかと推測される。2008(平成20)年度末の段階でダム本体が完成したが、供用開始に至らず、その期間が2年間以上に及んでいるダムがあれば、そのダム名、ダム本体完成年月、供用開始予定年月、供用開始の遅延理由を明らかにされたい。なお、対象ダムは直轄ダム、水資源機構ダム、補助ダムとする。

※ 答弁は下記Ⅰ‐3‐(2)下をご参照ください。

▼質問Ⅰ‐3‐(2):

上記(1)の供用開始遅延ダムにおいて遅延の理由が地割れ等の地質上の問題にある場合はその対策工事の内容とその対策工事の全事業費およびダムの総事業費を明らかにされたい。

△ 答弁:

御指摘の「ダム本体が完成」、「供用開始」及び「地質上の問題」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、現時点において国土交通省で把握している限り、治水特別会計(平成20年度からは社会資本整備事業特別会計治水勘定)から予算が支出されたダム建設事業によるダム(以下「国土交通省所管ダム」という。)であって、ダムに初めて湛水を開始した年度以降、ダム本体又はその貯水池周辺の変状、気象等の影響による湛水の遅れ等の不測の事態が発生し、当該年度から維持管理費(堰堤維持費及び水資源開発事業交付金における管理業務に係る予算を含む。以下同じ。)について初めて予算を計上する年度までの期間が平成20年度末の段階で2年を超えたダムは、大滝ダム以外にはない。

▼  質問Ⅰ‐3‐(3):

平成元年度以降、ダム本体が完成したダムで、ダム本体完成から供用開始まで2ヵ年以上かかったダムがあれば、そのダム名、ダム本体完成年月、供用開始年月、供用開始の遅延理由を明らかにされたい。なお、対象ダムは直轄ダム、水資源機構ダム、補助ダムとする。

△  答弁:

御指摘の「ダム本体が完成」及び「供用開始」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、現時点において国土交通省で把握している限り、国土交通省所管ダムであって、平成元年度以降に、ダムに初めて湛水を開始した年度から維持管理費について初めて予算を計上した年度までの期間に、ダム本体又はその貯水池周辺の変状、気象等の影響による湛水の遅れ等の不測の事態が発生し、当該期間が2年を超えたダムについて、名称、初めて湛水を開始した年度、維持管理費について初めて予算を計上した年度及び維持管理費に係る予算の計上が当初の予定から遅延した主な理由をお示しすると、それぞれ次のとおりである。

八田原ダム、平成6年度、平成10年度、試験湛水の長期化

中筋川ダム、平成7年度、平成11年度、試験湛水の長期化

滝沢ダム、平成17年度、平成20年度、地滑り対策工事の実施

浦山ダム、平成8年度、平成11年度、試験湛水の長期化

味噌川ダム、平成5年度、平成8年度、試験湛水の長期化

白川ダム、平成6年度、平成10年度、試験湛水の長期化

牛頸ダム、平成元年度、平成4年度、試験湛水の長期化

鳴見ダム、平成元年度、平成4年度、試験湛水の長期化

広渡ダム、平成3年度、平成6年度、地滑り対策工事の実施

▼質問Ⅰ‐3‐(4):

上記(3)の供用開始遅延ダムにおいて遅延の理由が地割れ等の地質上の問題にある場合はその対策工事の内容とその対策工事の全事業費およびダムの総事業費を明らかにされたい。

△答弁:

御指摘の「供用開始遅延ダム」及び「地質上の問題」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、現時点において国土交通省で把握している限り、Ⅰ‐3‐(3)についてでお示ししたダムのうち、初めて湛水を開始した以降に当初は予定していなかった地滑り対策工事を実施したダムについて、名称、当該工事の内容、当該工事の事業費及びダム建設事業の全体事業費をお示しすると、それぞれ次のとおりである。

滝沢ダム、アンカー工等、約145億円、約2,320億円

広渡ダム、押え盛土工等、約14億円、約145億円

4 八ッ場ダムの貯水池周辺の地すべりの可能性について

▼質問Ⅰ‐4:

八ッ場ダム工事事務所のホームページには貯水池周辺で地すべりの可能性のある箇所として22箇所が抽出されたものの、対策工事が実施されるのは3箇所だけと記されている。残りの箇所について大滝ダムのように試験湛水開始後に地割れ、地すべりが起きた場合の責任をどう考えるのかについて見解を示されたい。

△答弁:

八ッ場ダムの貯水池周辺における地滑りに関しては、これまでの調査・検討に加え、現在、地滑りに関する専門家の助言を受けながらより精度の高い調査を実施しているところであり、今後、これらの調査結果を基に更に検討を行い、地滑りの可能性のある箇所については、必要な対策を講じることとしている。

Ⅱ 八ッ場ダム事業の工事進捗状況と今後の見通しについて

1 八ッ場ダムの関連事業である付替国道、付替県道、付替鉄道、代替地造成について

(1)      付替国道、付替県道、付替鉄道、代替地造成の工事進捗状況について

▼質問Ⅱ‐1‐(1)‐①:

付替国道について平成20(2008)年度末で既に完成した区間、工事に着手している区間、契約済みの区間の延長とその全体に対する割合を各々について示されたい。

※ 答弁は下記Ⅱ‐1‐(1)‐②下をご参照ください。

▼質問Ⅱ‐1‐(1)‐②:

付替県道の林岩下線、林長野原線、川原畑大戸線のそれぞれについて平成20 年度末で既に完成した区間、工事に着手している区間、契約済みの区間の延長とその全体に対する割合を各々について示されたい。

△答弁:

八ッ場ダム建設事業に係る付替道路について、既に完成した区間の延長とその全体に対する割合及び工事に着手している区間の延長とその全体に対する割合は、平成20年度末現在、一般国道145号の付替道路のうち先行して二車線で完成予定のもの(以下「二車線の付替国道」という。)がそれぞれ約600メートル、約6パーセント、約7.5キロメートル、約69パーセント、一般県道林岩下線の付替道路がそれぞれ0キロメートル、0パーセント、約4.7キロメートル、約68パーセント、一般県道林長野原線の付替道路がそれぞれ0キロメートル、0パーセント、約2.9キロメートル、約76パーセント、一般県道川原畑大戸線の付替道路がそれぞれ約200メートル、約18パーセント、約34メートル、約3パーセントである。なお、当該工事については、工事に係る契約の締結をもって工事の着手としており、お尋ねの「工事に着手している区間」と「契約済みの区間」の延長等は同じである。

▼  質問Ⅱ‐1‐(1)‐③:

付替鉄道について平成20年度末で既に完成した区間、工事に着手している区間、契約済みの区間の延長とその全体に対する割合を各々について示されたい。また、新川原湯温泉駅の工事進捗率も明らかにされたい。

△  答弁:

八ッ場ダム建設事業に係る東日本旅客鉄道株式会社吾妻線の付替鉄道(以下「付替鉄道」という。)について、既に完成した区間の延長とその全体に対する割合及び工事に着手している区間の延長とその全体に対する割合は、平成20年度末現在、約7.8キロメートル、約75パーセント、約1.2キロメートル、約12パーセントである。なお、当該工事については、工事に係る契約の締結をもって工事の着手としており、お尋ねの「工事に着手している区間」と「契約済みの区間」の延長等は同じである。

また、お尋ねの「新川原湯温泉駅の工事進捗率」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、付替鉄道に新たに設置される駅については、現在、用地買収と造成工事を進めているところである。

▼  質問Ⅱ‐1‐(1)‐④:

代替地について各地区ごとに平成20年度末で分譲を開始している面積とその分譲を予定している全体の面積に対する割合および完成済み家屋数と居住済み家屋数を示されたい。

△  答弁:

八ッ場ダム建設事業に係る代替地については、すべての地区で分譲を開始しており、各地区の「分譲を開始している面積とその分譲を予定している全体の面積に対する割合」は、平成20年度末現在、川原畑地区が約6,100平方メートル、約10パーセント、川原湯地区が約9,800平方メートル、約10パーセント、横壁地区が約6,900平方メートル、約20パーセント、林地区が約5,500平方メートル、約7パーセント、長野原地区が約6,200平方メートル、約9パーセントである。

また、お尋ねの「完成済み家屋数と居住済み家屋数」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、代替地に移転が完了している世帯数は、国土交通省が把握している限り、平成20年度末現在、川原畑地区で零世帯、川原湯地区で2世帯、横壁地区で2世帯、林地区で6世帯、長野原地区で6世帯である。

(2) 付替国道、付替県道、付替鉄道の未買収地について

▼質問Ⅱ‐1‐(2):

付替国道、付替県道、付替鉄道のそれぞれについて平成20年度末における未買収地の距離数とその買収見込み時期を明らかにされたい。なお、付替県道は林岩下線、林長野原線、川原畑大戸線のそれぞれについて示されたい。

※答弁は下記Ⅱ‐1‐(3)下をご参照ください。

(3) 付替国道、付替県道、付替鉄道、代替地造成の完成予定時期について

▼質問Ⅱ‐1‐(3):

付替国道、付替県道、付替鉄道、代替地造成のそれぞれについて完成予定時期を示されたい。なお、付替県道は林岩下線、林長野原線、川原畑大戸線のそれぞれについて、代替地は地区別に示されたい。また、付替国道、付替県道について暫定供用開始がある場合はその時期と区間を明らかにされたい。

△  答弁:

お尋ねの「未買収地の距離数」については、多数の未買収の土地と買収した土地が混在しており、未買収地の距離を正確に算定するためには膨大な作業が必要となることから、お答えすることは困難である。

二車線の付替国道、一般県道林岩下線の付替道路及び付替鉄道は平成22年度末まで、一般県道林長野原線の付替道路は平成24年度末まで、一般県道川原畑大戸線の付替道路は平成26年度末までに工事を完了する予定であり、それぞれ、それまでに必要となる用地の買収を進めることとしている。

二車線の付替国道の群馬県吾妻郡長野原町長野原から同町横壁までの区間の一部、一般県道林岩下線の付替道路の同町川原湯地区内の区間の一部等については、既に暫定的に供用しており、二車線の付替国道の同町横壁から同郡東吾妻町松谷までの区間、一般県道林岩下線の付替道路の同郡長野原町林から同郡東吾妻町三島までの区間等については、平成22年度には暫定的に供用する予定である。

また、代替地については、すべての地区で、平成21年度末までにおおむね造成が完了する予定である。

(4) 水没予定地住民の移転終了予定時期について

▼質問Ⅱ‐1‐(4):

水没予定地住民の移転終了予定時期を明らかにされたい。

△答弁:

「水没予定地住民の移転」は、平成24年度に開始する予定である八ッ場ダムの本体となるコンクリートの打設までに、おおむね完了していることを予定している。

(5) 現国道および現鉄道の廃止予定時期について

▼質問Ⅱ‐1‐(5):

現国道および現鉄道の廃止予定時期を明らかにされたい。

△答弁:

前回答弁書(平成21年2月6日内閣参質171第19号)Ⅱ‐1‐⑥及び⑦についてで述べたとおりである。

2 八ッ場ダムの本体工事について

(1) 平成21年度に行う予定の本体工事の内容について

▼質問Ⅱ‐2‐(1)

今年度後半から本体工事に着手する予定と聞く。今年度の本体工事として予定している工事の内容を詳しく示されたい。

※ 答弁は下記Ⅱ‐2‐(2)下をご参照ください。

(2) 平成22年度以降の毎年度の本体工事の内容について

▼質問Ⅱ‐2‐(2):

平成22年度以降に予定している毎年度の本体工事の内容を詳しく示されたい。

△答弁:

前回答弁書Ⅱ‐1‐(5)についてで述べたとおりである。

Ⅲ 八ッ場ダム建設事業の費用便益比計算について

今2月24日の関東地方整備局の事業評価監視委員会において八ッ場ダム建設事業の費用便益比の新しい計算結果が示された。この便益計算に関して以下の事項を質問する。

1 洪水調節に係る便益計算について

(1) 洪水氾濫シミュレーションについて

▼質問Ⅲ‐1‐(1)‐①:

洪水調節に係る便益は洪水氾濫のシミュレーションの計算結果から求められている。このシミュレーションは利根川の上流部(河口距離約200キロメートル付近)から河口までの本川(江戸川を含む)の周辺を12ブロックに分けて行われている。昭和22年のカスリーン台風の後の実際の洪水で、この12ブロックのそれぞれにおいて本川からの氾濫が起きたことがあるならば、その氾濫浸水面積を洪水ごとに示されたい。

△答弁:

御指摘の洪水について、御指摘のブロックごとに氾濫により浸水した面積を把握して

おらず、お尋ねについてお答えすることは困難である。

▼質問Ⅲ‐1‐(1)‐②:

今回の計算結果の一例(平成10年9月型洪水)をみると、3年に1回の洪水では12ブロックのうちの1ブロックで破堤・氾濫が起き、そして、5年に1回の洪水では4ブロックで、10年に1回の洪水では5ブロック、30年に1回の洪水では11ブロックで破堤・氾濫が起きているが、実際にはそのように頻繁な氾濫はまったく起きていない。実際には起きていない破堤・氾濫が計算される理由を詳しく説明されたい。

△答弁:

国土交通省が平成21年3月に八ッ場ダム建設事業の再評価(以下「再評価」という。)を行うに当たって前提とした一級河川利根川水系利根川(以下「利根川」という。)及び一級河川利根川水系江戸川(以下「江戸川」という。)の氾濫計算(以下「今回の氾濫計算」という。)は、「治水経済調査マニュアル(案)」(平成17年4月1日付け国河計調第2号国土交通省河川局河川計画課長通知。以下「マニュアル」という。)に従って実施しており、原則として、氾濫ブロックにおいて、想定する洪水の水位が安全に流下できると評価した水位を超える地点がある場合に、当該氾濫ブロックのあらゆる地点において破堤又は越水が生じる可能性があると仮定して計算したものである。

▼  質問Ⅲ‐1‐(1)‐③:

今回の洪水氾濫シミュレーションの結果が実際と大きく異なった第一の理由として考えられるのは、想定洪水流量が大きすぎることである。利根川の八斗島地点で昭和25年以降の最大の洪水は平成10年9月洪水の毎秒9,222立方メートルであり、実績流量の推移から見て、これが50年に1回程度の洪水であると考えられる。今回の計算でも平成10年9月型洪水が計算対象となっているが、実績の毎秒9,222立方メートル程度の洪水が今回の計算では何年に1回の洪水と想定されているのかを明らかにされたい。

△  答弁:

御指摘の「毎秒9,222立方メートル」に対する年超過確率は計算しておらず、お尋ねについてお答えすることは困難である。

▼  質問Ⅲ‐1‐(1)‐④:

第二の理由として考えられるのは、利根川の河道の流下能力の過小評価である。今回の計算でたとえば八斗島地点から栗橋地点までの区間において氾濫開始流量が毎秒何立方メートルとされたのかを明らかにされたい。また、堤防の天端まで洪水が流れる場合の流下能力を考えた場合、この区間における最小の流下能力が毎秒何立方メートルであるかも明らかにされたい。

△答弁:

お尋ねの「氾濫開始流量」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、今回の氾濫計算で、御指摘の「八斗島地点から栗橋地点までの区間」の大部分を占める氾濫ブロックとして設定した左岸側、右岸側各1ブロックの氾濫ブロックにおいて、洪水により堤防が破堤して氾濫が始まると設定した流量は、左岸側が毎秒9,850立方メートル、右岸側が毎秒11,165立方メートル及び14,686立方メートルである。

また、当該氾濫ブロックにおいて、洪水時に堤防の安全性が低下することを考慮せず、洪水の水位が堤防天端まで上昇すると想定した場合の流量のうち最小の流量は、毎秒18,172立方メートルである。

▼質問Ⅲ‐1‐(1)‐⑤:

第三の理由として考えられるのは、各ブロックの氾濫が同時に進行することがあるという前提で計算していることである。しかし、実際には、上流ブロックで氾濫すれば、河川内の洪水の一部が外に逃げて洪水位が下がるため、下流ブロックでの氾濫は起きにくくなる。今回の計算において上流ブロックで氾濫しても、それとは無関係に下流ブロックでも氾濫するという現実離れした計算を行った理由を明らかにされたい。

△答弁:

今回の氾濫計算は、マニュアルに基づき氾濫ブロックごとに実施しており、当該氾濫ブロックの上流部における破堤による氾濫は想定していないものの、当該上流部における越水又は溢水により生じる下流への流量の低減は考慮している。

(2)八ッ場ダムの洪水調節効果について

▼質問Ⅲ‐1‐(2)‐①:

今回の計算では八斗島地点における八ッ場ダムの洪水調節効果をどのような     データと手順で求めたのかを明らかにされたい。

△答弁:

今回の氾濫計算においては、過去に生起した10の洪水時における降雨パターンを用いて、利根川水系に年超過確率200分の1までの洪水が生起した場合について、八ッ場ダムがあるとき及び八ッ場ダムがないときにおける八斗島地点のピーク流量を一般的な流出計算手法を用いて算出している。

▼質問Ⅲ‐1‐(2)‐②:

八ッ場ダム予定地の直下では岩島地点で毎時の流量観測が行われている。岩島地点の毎時の観測流量で見て、今回の八ッ場ダムの洪水調節効果はあまりにも大きすぎると考えられる。今回の計算による八ッ場ダムの洪水調節効果が妥当であるかどうかを岩島地点の毎時の観測流量で検証した結果を示されたい。

△答弁:

お尋ねの趣旨が明らかではなく、お答えすることは困難である。

(3)八ッ場ダムの年平均被害軽減期待額の計算での不可解な操作について

▼質問Ⅲ‐1‐(3)‐①:

八ッ場ダムの年平均被害軽減期待額の最終値を出すに当たって、計画高水流量(八斗島?点で毎秒16,500立方メートル)の確率規模を超える部分のみを八ッ場ダムに係る分としているが、そのように計画高水流量の確率規模を超える部分を取り出す理由を説明されたい。

※答弁は下記Ⅲ‐1‐(3)‐④下をご参照ください。

▼  質問Ⅲ‐1‐(3)‐②:

計画高水流量の確率規模を超えない部分も含めた場合は八ッ場ダムの費用便益比がいくつになるのか、その計算値を示されたい。

△答弁:

計画高水流量より小さな流量の部分に係る年平均被害軽減期待額を含めた場合の八ッ場ダムの治水に係る費用便益比は、14.6である。

▼  質問Ⅲ‐1‐(3)‐③:

利根川において計画高水流量に対応できる河道改修の完了時期の見通しを明らかにされたい。また、今後30年間の河川整備の内容を定める現在策定中の利根川水系河川整備計画では河道で対応する八斗島地点の目標流量を毎秒何立方メートルにする予定なのか、およその数字の範囲を示されたい。

△答弁:

計画高水流量については、長期にわたる河川整備の目標を明らかにする利根川水系河川整備基本方針において定めているが、「計画高水流量に対応できる河道改修の完了時期の見通し」については定めておらず、お示しすることは困難である。また、「河道で対応する八斗島地点の目標流量」については、現在、利根川水系河川整備計画の策定に向け作業を行っているところであり、現時点でお示しすることはできない。

▼質問Ⅲ‐1‐(3)‐④:

計画高水流量に対応できる河道改修の完了時期は遠い将来のことであり、一方、八ッ場ダムの完成予定年度は現時点では平成27年度とされているから、遠い将来に達成される予定の計画高水流量で八ッ場ダムに係る分を取り出すのはまったく不合理である。それにもかかわらず、そのような取り出しを国土交通省がわざわざ行ったのは、そうでもしないと、八ッ場ダムの費用便益比が14~15倍という異様に大きな値になってしまうからに他ならない。すなわち、前回の計算による費用便益比が2.9であったから、今回の計算でもそれに近い値が得られるように数字の操作を行ったものと推測される。となる

と、八ッ場ダムの費用便益比の計算は最初からおよその数字がきまっていて、それに近い値が得られるように行ったものに過ぎず、(1)と(2)で述べた問題、および後述の2で述べる問題も含めて科学的な計算とは程遠いものである。そのようにきわめて恣意的な計算で八ッ場ダム建設事業の費用便益比が求められ、それによって事業継続が妥当という判断がされていることは由々しき問題である。この点に関する見解を明らかにされたい。

△  答弁:

国土交通省が平成15年12月及び平成20年3月に再評価を行うに当たって前提とした洪水調節に係る便益の算定においては、利根川水系工事実施基本計画における八斗島地点の計画高水流量より小さな流量の部分に係る年平均被害軽減期待額を利根川及び江戸川の河川改修に係る便益とし、計画高水流量から基本高水のピーク流量の部分に係る年平均被害軽減期待額を八斗島地点の上流のダム等に係る便益としていた。平成21年3月に再評価を行うに当たって前提とした洪水調節に係る便益の算定においても、その基本的な考え方を踏襲したものであり、「恣意的な計算」であるとは考えていない。

2 景観改善に係る便益計算について

(1)八ッ場ダム建設のマイナス面に何も触れないアンケートについて

▼質問Ⅲ‐2‐(1):

景観改善については吾妻渓谷の観光客を対象としたアンケート調査を行い、その結果から便益計算が行われているが、そのアンケート用紙は、八ッ場ダムが吾妻渓谷に与えるマイナス面にはまったく触れないものになっている。八ッ場ダムが建設されれば、①「渓谷の上流部は破壊され、水没する」、②「渓谷の前面に大きなダムが聳え立って渓谷の視野が遮られる」、③「残る渓谷の中下流部も八ッ場ダムで洪水調節を行うようになると、下久保ダム直下にある三波石峡のように洪水が渓谷の岩肌を洗うことがなくなり、岩肌に草木やコケが生えて景観がひどく悪化する」ことが確実に予想されるのであって、そのことにまったく触れないアンケート用紙を配布するのはあまりにも不誠実である。八ッ場ダムが吾妻渓谷に与えるマイナス面にまったく触れないアンケートを行った理由を明らかにされたい。

△答弁:

国土交通省関東地方整備局八ッ場ダム工事事務所が平成20年11月に実施した吾妻渓谷の景観改善への取組に関するアンケート調査(以下「アンケート調査」という。)は、渇水時の吾妻川の景観改善のために必要な吾妻川の維持流量を八ッ場ダムから補給する場合の景観改善の効果に着目し、その便益を算出するために実施したものであり、アン ケート調査の項目については、当該便益の算定に資するものを設定したものである。

(2)      吾妻渓谷の観光客数を大きく水増しした景観の便益計算について

▼質問Ⅲ‐2‐(2):

今回の計算では、右記のアンケートの結果から得た数字(景観改善に観光客が1人当たり年間1,560円払う)に観光客数をかけて、八ッ場ダムの景観改善の便益を計算している。そこで使われた観光客数は約57万人であるが、これも実際よりもかなり大きな数字である。吾妻渓谷の散策を楽しめる日数は、雨天、厳寒、酷暑の日を除くと、せいぜい年間の半分、180日程度であるから、57万人を180日で割ると、1日平均で3,000人になるが、そんなに大勢の人が吾妻渓谷に来ているはずがない。国土交通省が11月初旬の最もよい季節で延べ5日間、アンケート調査を行った対象が677人にとどまっていることから見ても、一日平均で3,000人、5日間で15,000人という観光客数が現実離れした数字であることは明らかである。この点について見解を示されたい。

△  答弁:

御指摘の約57万人という観光客数は、吾妻渓谷の年間観光客数を実測した資料が存在しないため、アンケート調査の結果及び川原湯温泉に宿泊する観光客数を基に算出したものであるが、御指摘の「景観改善の便益」の算定手法については、必要に応じて今後検討してまいりたい。

(3)      八ッ場ダムがなくても、発電の水利権更新で解消される吾妻渓谷の流量減少について

吾妻渓谷の晴天日の流量は多くはなく、渇水時の冬期には毎秒1立方メートル前後まで流量が落ち込むことがある。この原因は東京電力の水力発電所の大量取水にある。吾妻川には多くの水力発電所が設置されていて、川に流れるべき水の大半が発電所への送水管の中を流れている。吾妻渓谷と並行して走っている松谷発電所の送水管には最大で毎秒25.6立方メートルの水が流れている。しかし、これらの発電所は水利権の更新時期を近々迎えることになっており、そのときに下流放流が義務付けられるので、吾妻渓谷の減水状態は解消されることになる。このことに関して次の3点の質問に答えられたい。

▼  質問Ⅲ‐2‐(3)‐①:

松谷発電所の水利権の更新時期はいつか。

△答弁:

御指摘の松谷発電所に関する水利権の許可期間は、平成23年度末までであり、東京電力株式会社からの申請があれば、必要な審査を行い、許可の更新について判断することとなる。

▼  質問Ⅲ‐2‐(3)‐②:

その水利権更新によっておよそ毎秒何立方メートルの下流放流が義務付けられると予想されるのか。

※答弁は下記Ⅲ‐2‐(3)‐③下をご参照ください。

▼質問Ⅲ‐2‐(3)‐③:

このように発電所の水利権更新で解決する吾妻渓谷の減水状態の解消を八ッ場ダムの

便益とすることに問題はないのか。

△答弁:

東京電力株式会社から水利権の許可の更新についての申請を受けていない現時点において、許可の条件についてお答えすることは困難である。なお、渇水時にも安定的に吾妻川に維持流量を確保するためには、八ッ場ダムが必要であると考えている。

Ⅳ 特定多目的ダム法のかんがい用水の受益者負担金について

特定多目的ダム法第10条に「多目的ダムによる流水の貯留を利用して流水をかんがいの用に供する者は、多目的ダムの建設に要する費用につき・・・10分の1以内で政令で定める割合の額及びその額に対応する建設期間中の利息の額を合算した額の負担金を負担しなければならない。」と記され、同条第3項で都道府県が条例を定めてかんがい用水の受益者に負担させることになっている。ところが、実際にかんがい用水の受益者負担金を徴収した例がないと聞く。このことはダムの建設目的にかんがい用水の確保を安易に加え、不要なダム建設の推進理由になりかねないので、このことに関して次の3点を質問する。

▼  質問Ⅳ‐1:

かんがい用水の開発を建設目的に含む全国の多目的ダム(直轄ダム)で、今までかんがい用水の受益者負担金を徴収した例があれば、そのダム名、ダムの完成時期、都道府県名、条例の名称、かんがい用水の受益地名を明らかにされたい。

△答弁:

国土交通省としては、都道府県による特定多目的ダム法第10条第1項の負担金(以下「受益者負担金」という。)の徴収状況について把握しておらず、お尋ねについてお答えできない。

▼  質問Ⅳ‐2:

多目的ダムの建設費の一部についてかんがい用水の受益者負担金を徴収するの は本来いつの時点となっているのか、ダムの建設中か、ダム完成後か、あるいはそのか んがい用水を供給する事業が完成した後かを明らかにされたい。

△答弁:

都道府県知事が徴収する受益者負担金の徴収の方法については、特定多目的ダム法第10条第3項において準用する同法第9条第2項の規定により、都道府県の条例で定めるものとされている。

▼  質問Ⅳ‐3:

特定多目的ダム法第10条により、かんがい用水の受益者は建設費の一部を負担しなければならないとされているにもかかわらず、都道府県がその受益者負担金を肩代わりすることがあれば、特定多目的ダム法に抵触することになるが、このことについて見解を示されたい。

△答弁:

御指摘の「受益者負担金を肩代わり」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、国土交通省としては、都道府県の条例で受益者負担金を免除することを定めた事例は承知していない。